大苦戦「もしがく」の視聴率はV字回復できるか 三谷幸喜とフジが組んだ伝説的ドラマ3作との“大きな違い”とは
三谷3部作
その3作とは、三谷氏の本格的なドラマデビュー作となった「振り返れば奴がいる」(93年)、「古畑任三郎」シリーズ(94年~)、「王様のレストラン」(95年)だ。
「振り返れば―」は織田裕二(57)と石黒賢(59)がダブル主演。舞台は派閥争いが激化していた大病院。そこに腕は確かな熱血漢の青年医師・石川玄(石黒)が赴任してくる。もともと病院の外科にいた、天才的なメス捌きを誇る司馬江太郎(織田)とは医師としての考え方がまったく合わず、次第に2人は信念を巡って激しく衝突することになる。主題歌は当時、全盛期を迎えていた人気デュオ・CHAGE&ASKA新曲の「YAH YAH YAH」を起用。ダブルミリオンとなった同曲もドラマを大いに盛り上げ、初回は12.7%と当時にしてはヒットとは言えないスタートだったが、最終回は全話最高の22.7%を記録した。
「フジで三谷氏が88年から91年まで手掛けた『やっぱり猫が好き』がカルト的な人気となり、連ドラ起用へ白羽の矢が立ちました。三谷氏は、医療ものの名作『白い巨塔』を元ネタとしてオマージュし脚本を執筆。石川と司馬のバチバチ、病院の複雑な人間関係、男女の愛憎をうまく組み合わせましたが、ストーリーの中心にいるのはあくまでも石川と司馬だった」(当時を知る元フジの社員)
「古畑任三郎」シリーズは21年に亡くなった田村正和さん主演の人気刑事ドラマシリーズ。田村さんが演じた警部補・古畑任三郎が、ゲスト出演の犯人による犯罪のアリバイやトリックを巧みな話術と卓越した推理力で崩していき、完璧と思われていた犯行の真相を解明していく。
劇中で起こる犯罪はほとんどが殺人だが、犯人として登場した面々は豪華だった。歌手の中森明菜(60)、いずれも故人の菅原文太さん、緒形拳さんらの大御所、明石家さんま(70)、SMAP、そして、当時現役メジャーリーガーだったイチロー氏(51)まで登場した。
「94年の1st seasonは、全12話の平均が14.2%。96年の2nd seasonは全10話の平均が25.3%と急上昇。以後の放送は当たり前のように20%を超え、30%超えの回もありました。最初に犯行の全容を見せ、古畑が犯人とのやりとりから容疑を固め、最後に自供に追い込むという、アメリカドラマの人気シリーズ『刑事コロンボ』で知られる、倒叙ものといわれる形式でストーリーが進行していきます。西村雅彦(64)が演じた古畑の部下・今泉巡査との軽妙なやりとりも見せ場でしたが、あくまでも古畑VS犯人がメイン。そこに視聴者が引き込まれハマった」(同前)
人物の絞り込みを
そして、「王様のレストラン」では歌舞伎俳優の松本白鸚(当時、松本幸四郎、83)を起用。赤字続きで潰れかかったフレンチレストランに、かつて働いていた伝説のギャルソン(給仕)・千石武(松本)が現れる。店の再建を目指し、千石に触発されて奮闘する若者たちの人間ドラマが描かれ、全11話の平均は17.1%を記録した。
「後に三谷氏が明かしたところによると、このドラマは弱小球団がどんどん強くなっていくアメリカの作品『がんばれベアーズ』をフレンチレストランを舞台にやりたい、と発注を受け、『天皇の料理番』(80年、TBS)からヒントを得たそうです。『古畑任三郎』の成功で三谷氏の意見が通るようになり、キャスティングでは、西村のみならず小野武彦(83)、梶原善(59)、白井晃(68)、故・伊藤俊人さん、田口浩正(57)といった実力派の舞台役者が出演し話題になったが、この実力派たちが物語を盛り上げました。局の狙いはあたり、レストランの再建にかける主人公たちの熱意が、視聴者を取り込んだのです」(放送担当記者)
一方、「もしがく」で三谷氏がオマージュした「ムーミン」には、バチバチの人間関係も、権力争いも、愛憎劇も、殺人犯もなし。かろうじて、これから劇場再建に向け、主人公らが奮闘しそうな流れではある。
「三谷氏は今作を、『不思議な巡り合わせが』重なるドラマであることを説明していますが、視聴者はそこまで考えて見ていないはず。もっと配役を絞り込んで、本題に入ってからこれまでのヒット作の要素を盛り込んで話を展開させれば良かったのでは。たしかに、90年代に比べてコンプラは厳しいかもしれないが、かつての三谷氏のように、もっと際どいところを攻めた要素がほしかった。第2話では秋本演じるモネのきわどい場面、初回は二階堂演じるリカの肌の露出は多めだったが、視聴者はもっと自分も熱くなれるようなものを求めているはず」(同前)
三谷氏は連載で〈尻上がりに数字が良くなり、最終回が最高視聴率というのが理想なのだけど。さて今回は?〉と締めたが、第3回の視聴率は……。
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