娘を亡くしたはずの家に並ぶ真新しい絵本、子供靴、歯ブラシ… “開けてはいけない部屋”に触れられた母の豹変【川奈まり子の百物語】

  • ブックマーク

 これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集し、語り部としても活動する川奈まり子が世にも不思議な一話をルポルタージュ。今回は、奇妙な“独り暮らし”をする女性を紹介する。
 
 ***

 いわゆる実話系と呼ばれる怪談の類を10年以上前から書いてきた。その手の本を何十冊か出してきたせいで、ときどき心霊がらみの悩み事を相談される。だが、私自身は決して解決に乗り出さないと決めている。また、解決できそうな人物として、たとえば霊能力者や霊媒師などを紹介することもない。

 ただ、「高名で歴史あるお寺か神社に行って相談してみてください。神社であれば、由緒正しい神宮や大社か、さもなければ先祖代々参詣してきた地元の神社へ。お寺であれば、お祓いに対応している古刹へ」と言うだけだ。

 由緒ある寺社を勧める理由は、けっして権威主義からではなく、すべからく古社寺は名に恥じぬ振る舞いを期待されており、重責を負っているので、詐欺やボッタクリをする可能性が低いからだ。

 自称霊能者・霊媒師には詐話師が紛れ込んでいる。それは、これまでに彼らが数々の刑事事件を起こしてきた事実からも明らかだ。

 私は心霊現象が起こり得ると思っているし、幽霊には是非とも存在してほしいと考えているけれど、犯罪行為の片棒を担ぐのはごめんだ。

――だから、去年の11月頃に珠美さん(仮名)から「浄霊できそうな知り合いがいたら紹介してほしい」と言われたときも、例の決まり文句を述べるにとどめた。

珠美さんと「従姉」

 珠美さんは、私の公開メールアドレスに体験談を寄せてくださった、いわゆる「体験者」で、連絡を頂戴した翌日には、さっそくインタビューさせていただいた。

 私のもとには、週に4~5件は奇妙な体験談が送られてくる。彼女もその1人だったというわけだ。

 彼女は埼玉県在住の50歳、既婚。フルタイムで働きながら中学2年生のひとり娘を育てている。夫は前の勤務先の同僚で同い年。娘の小学校入学に合わせて、中古物件を夫婦で購入し、東京都内の集合住宅から現在の家へ引っ越した。

「立地の良い二階建てで、家の周囲は住宅街。文教地区なので子育て世帯が多く、住みやすいです。子どもの頃から仲良しだった私の従姉が近くのマンションに住んでいたのも決め手になって、今の家を買いました」

 従姉は珠美さんより1つ年上で、バツイチの独身。離婚原因は子どもの事故死。今からおよそ10年前に、当時4歳の娘が自宅のベランダから転落して亡くなり、この事故の責任を巡って夫婦仲が険悪になった結果、夫と別れたのだ。

 そうした不幸があった当時、珠美さんは、あえて従姉と距離を置こうとしたのだという。

「従姉の娘ちゃんはうちの子と同い年でした。よく子育ての悩みを打ち明け合ったり、一緒に遊ばせていたりしたので……私なりに気をつかったんです」

 しかし、離婚後の従姉は存外に元気で、親戚の集まりにも欠かさず顔を出し、珠美さんの娘にも以前と同じように接したのであった。

 珠美さんは、立ち直りが早すぎると感じたとのこと。

「私なら絶対に耐えられない。きっと心を病んでしまうに違いないのに、と。私はそれを彼女の強さだと思いました。気丈な人だなぁと尊敬していたんです。他の親戚たちもそう言って感心していました……だけど、違った。従姉は子どもの幽霊と暮らしていたんです。だから平気だったんです」

次ページ:痛ましい独り暮らし

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。