挨拶は無視され、車はパンク、怪文書…「素人に何ができる」 3児ワンオペ母の元主婦が年商1000億円「ご当地スーパー」を復活させるまで

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危機から一転

 このままではタイヨーが危機的状況になってしまう――。

 そして、照美さんの“革命”が始まった。

「経営に携わる周りの人は、私をド素人の単なる主婦だという目で見ていたと思います。“この奥さんに何ができるんだろう”って。簿記の2級は持っていましたが、実際に『素人に何ができる』と言われたことも。でも、あの頃、会社内で数字を本当に理解できていた方は、どれだけいたでしょうか」

 改革に着手した照美さんは、翌2013年の9月に経営体制の見直しのため、上場を廃止。そして会社内部のシステムを一新したのだ。

「まずは株主から株式を買い取るため、454億円を銀行から借りました。MBO(上場廃止、経営陣による株式買い取り)を行ったのです」

 反対の怪文書が出回り、頼りにしていた金融機関に協力を断られるなど、多くの反発があった。

「そして社内の改革として“営業利益”という言葉を浸透させました。上場廃止以前、タイヨーでは“売上”と“荒利”という考えに偏っていたのです」

 実際、タイヨーのように家族経営から始まり、長く続いてきた老舗には、このような経営体制をとっていたケースが少なくない。

「数字についてある意味、無頓着さがあるのかもしれません。タイヨーでは、財務や商品部といった部署ごとに、見ている帳票が異なっていた。だから、とにかくまずは数字を整えようと。どこの部門が見ても一目で数字がわかるように、統一の書式を作りました」

 青果や鮮魚、精肉にアパレル…スーパーの各部門で、“数字”が統一されることで可視化につながった。どこが赤字部門なのか、それぞれにどのくらい人件費が掛かっているか……など、すべての従業員が一目でわかるような仕組みに変えていったのだ。

 照美さんは大胆な改革を進めていった。だが、“創業家の嫁”だからといって社内で受け入れられるわけではない。むしろそれゆえの大きな反発があった。出社をすれば挨拶は無視され、机には靴の踏み跡が、自家用車のタイヤは何度修理してもパンクすることが続いた。

リストラはしない

「あの頃は本当にきつかった。周りは敵だらけで、6か月で12キロ痩せてしまいました。血を吐いて倒れたこともありました」

 だが、改革の結果、1年でタイヨーの経営は黒字化した。

 苦労の甲斐あって、そこから10年で454億円もの借入金を完済することができた。

 お金の流れを集約し、無駄をなくす。それが経費削減に繋がったのだ。照美さんは“当たり前のことを当たり前に行った”という。

 一般的な経費削減の方法といえばリストラだ。だが、照美さんは一切この方法を取らなかった。

「新しく雇い入れることはしなかったですが、リストラはせずに、定年や自己都合などの自然減に任せました。代わりに売り場に立つスタッフの働き方を効率化するように改革する。それは今も継続中です。セルフレジの導入も、10数年前にはスタートしており、他社より早かったと自負しています」

 照美さんが大切にしているのは、売り場という“現場”、そして“人”だ。

「現場出身の経営陣であっても、現場を離れて経営側に入ると、見え方が変わってしまう。いままで見えていたものが見えなくなってしまうんです。だから私は現場の人と話すようにするし、声がけをして現場で働いている人はどう感じているのか知るようにしています。会社を良くする答えは、すべて現場にあると私は思っています」

“数字は現場の人々が作ってくれる”というのが照美さんの口癖だ。

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