大ヒット「国宝」以外にも名作ぞろい「原作・吉田修一」映画 真木よう子、深津絵里、杉咲花らが輝いた必見の作品とは【秋の映画案内】

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深津絵里の繊細で儚げな演技の原点は

〇「悪人」(2010年)

 土木作業員の清水祐一(妻夫木聡)と、紳士服量販店に勤める馬込光代(深津絵里)。偶然出会った2人は、互いの心の隙間を埋めるように惹かれ合っていく。しかし、祐一は女性会社員殺害事件の犯人だった。愛する人が殺人犯だと知った光代は、祐一と共に警察の追っ手から逃れることを決意する。

 深津絵里は平凡で孤独な女性が愛によって変貌していく様を体現。国内外で絶賛され、第34回モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞した。

 深津は今年9月公開の「THEオリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」で、8年ぶりの映画出演が話題になった。これまでも出演本数は少ない彼女だが、凛々しさと繊細さが織りなす佇まいに多くのファンがいる。

 ここで演技の原点となるスクリーンデビュー作を紐解いてみたい。当時14歳だった深津は「水原里絵」名義で「1999年の夏休み」(1988年)に出演する。舞台は山と森に囲まれた全寮制の男子校。少年役4人をすべて10代の少女が演じ、少年たちの美しさや思春期特有の感情、そしてどこか幻想的な世界観が際立つ映像だ。少年の一人を演じた深津は、涼しげな目元に寂しげな雰囲気を醸し出していて、今でもファンの語り草となっている。

 9月28日に放送された「ボクらの時代」(フジテレビ)の中で深津は、「演技は初めてだったが、全く違うものになれたなら面白いなと思っていました」と当時を振り返っていた。本作は公開から30年後の2018年に再上映され、新宿の映画館では連日長蛇の列ができたという。現在はレンタルのみだが、深津ファンにはぜひ観てほしい一作だ。

信頼が崩れたときに訪れる痛みとは

〇「怒り」(2016年)

 吉田作品との相性がとても良いのだろう。「国宝」を監督した李相日が「悪人」に続きメガホンをとっている。

 八王子で起きた夫婦惨殺事件の犯人が整形手術で顔を変え逃亡を続ける中、千葉、東京、沖縄という3つの場所に現れた男たちが、その犯人ではないかと疑われていく様を描いた群像劇。それぞれの場所で、男たちと出会う人々の間に愛情や信頼が芽生えながらも、「信じたいけれど、疑ってしまう」という葛藤が彼らを極限状態に追い込んでいく。

 3つの場所に現れる男に松山ケンイチ、綾野剛、森山未來(3人のうちだれが犯人かは最後まで明かされない)。彼らと交わる人々に渡辺謙、宮崎あおい、妻夫木聡、広瀬すずと主役級が勢ぞろいした豪華なキャストだ。その中で、宮崎あおいと広瀬すずは、それぞれが背負う痛みを繊細かつ力強く演じている。

 宮崎は、千葉の漁港で父(渡辺謙)と暮らす、少し知的障害のある女性・愛子。素性も分からない田代(松山ケンイチ)と純粋な愛情を育んでいくが、田代が殺人犯ではないかという疑念が彼女の心を蝕んでいく。彼女は役作りについて、「愛子はすごくピュアで、だからこそ人の言うことを信じてしまう。その純粋さが、彼女自身を苦しめてしまうのがとても切なかった」と語っている。

 本作の前年、「海街diary」(2015年)のみずみずしさで注目されたばかりの広瀬は、沖縄の高校生・泉を演じた。泉は、無人島で出会ったバックパッカーの田中(森山未來)に心を許していくが、ある痛ましい事件に巻き込まれてしまう。無垢な少女が経験する絶望と心の変化を、広瀬は凄まじい集中力で演じる。広瀬は「撮影中は本当に辛くて、役から抜け出すのが大変だった」と打ち明けている。

 宮崎と広瀬はマクドナルドのCMシリーズに姉妹役で出演中。プライベートでも一緒に買い物に行く仲だということだ。

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