「酷評」噴出の三谷幸喜ドラマ 豪華キャストで高額制作費…すでに撮影済みで“活路”はあるのか
エピソードが薄い
三谷幸喜氏(64)による脚本のフジテレビ「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう(もしがく)」(水曜午後10時)の第2回が8日に放送される。1日放送の第1回は酷評が噴出したが、軌道修正はできない。もう大半を撮り終えてしまったからだ。活路はあるのか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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「もしがく」の第1回は酷評ばかり目についたが、視聴率のほうは最悪だったわけではない。個人3.1%(世帯5.4%)。フジが9月まで放送していた水曜午後10時台のドラマ「最後の鑑定人」は同17日放送の最終回が個人2.2%(世帯4.2%)だから、これは上回った。
それでも「もしがく」への酷評が止まないのは期待が大きかったからに違いない。三谷氏が民放のプライム帯(午後7~同11時)で連続ドラマを書くのは25年ぶり。キャストは超豪華。おまけにフジは最大級の大宣伝を行った。
第1回の中身がどうだったかというと、お世辞にも面白かったとは言えない。酷評もうなずける。検証してみたい。
物語は主人公の演出家・久部三成(菅田将暉)が、自分で旗揚げした劇団を追い出されるところから始まった。独善的で傲慢だったからだ。
行き場を失った久部が東京・渋谷をさまよっていたところ、八分坂という怪しげな街に辿り着く。このドラマの舞台だ。ここまではオーソドックスだった。
酷評を招いた大きな理由は、ここからの八分坂でのエピソードにある。あまりに淡泊だった。まずWS劇場というストリップ劇場で働くストリッパー・毛脛モネ(秋元才加)の息子がいなくなる。朝雄(佐藤大空)である。
この話を長々と引っ張ったものの、結局は大ごとにはならず、朝雄は見つかった。モネと朝雄の親子関係を深掘りしなかったから、面白みが乏しかった。
やはりストリッパーのいざなぎダンカン(小池栄子)は劇場の照明係・ノーさん(大野泰広)と沖縄へ旅立つ。駆け落ちだ。ダンカンは劇場に10年いた。旅立つかどうか最後まで迷った。
もっとも、それ以上の事情はやはり掘り下げなかった。あっさりしたもので、拍子抜けした。2人のエピソードだけでも濃厚な話にすることが出来たはずなので、勿体ない気がした。
ただし、この駆け落ちは伏線の役割を果たす。第1回後半のカギになる。2人が消えたことによって物語がつながった。
異様なストリップ
その後、久部は劇場が経営するバー「ペログリーズ」でぼられる。ハイボール4杯とお通しのナッツで9万3600円を請求された。支払えない。すると店側は久部が大切にしているシェークスピア全集の入ったカバンを取ってしまう。飲み代のカタだ。
カバンを取り戻そうとした久部が劇場に忍び入ったところ、オッフェンバックの「天国と地獄」に合わせて踊っていたストリッパーに目を奪われる。消えたダンカンのピンチヒッターとしてステージに立った倖田リカ(二階堂ふみ)である。「ペログリーズ」のホステスとして久部に法外な料金を請求した女だ。
リカはステージの一部でしか踊れなかった。照明のノーさんが駆け落ちしたため、ライトが固定になっていたからである。代わりに久部が自発的に照明を操る。ここまでが第1回だった。
予告によると、久部は第2回に劇場に就職。周囲に「芝居をやるんですよ。東京で一番の劇場にするんです」とぶち上げる。いよいよ本格的に物語がスタートするのか。
謎がある。ストリップ劇場であるにも関わらず、誰も脱がない。プライム帯のドラマで脱げるはずがないが、それなら別の設定にするべきだったのではないか。
いや、久部がストリップ劇場を東京一の劇場にしようとする物語でもあるので、設定変更は無理。演劇なら観客の想像力に委ねる部分が大きいので、脱がないストリッパーもアリだろうが、ある程度の写実性が求められるドラマでは厳しい設定だ。
脚本家が自分の投影された人物を登場させると、往々にしてマイナス作用が生じてしまう。このドラマの第1回にもそれが出てしまったかもしれない。若き日の三谷氏がモデルである新進放送作家・蓬莱省吾(神木隆之介)のことだ。
蓬莱はお笑い子コンビ・コントオブキングスの台本作家として劇場に出入りしている。ほかの出演陣がこぞって二枚目半か三枚目である中、スマートな二枚目。その分、周囲に押されてしまい、目立たない。三谷氏は自分の分身を辱めたくないのか、それとも蓬莱は今後変わるのか。
第1回は久部にも魅力が感じられなかった。横暴で自信過剰、自分勝手でやさしさが欠落しているからである。演じた菅田は大半のシーンで眉を八の字に吊り上げていた。ゾッとするほどだった。主人公に親しみが持ちにくいドラマはしんどい。
残念ながら、問題と感じられた点はまだある。第1回は20人の豪華出演陣のお披露目でもあったため、部分的にカタログ的になってしまった。紹介を第2回以降に分けなかったのは俳優陣を平等に扱おうとする三谷氏の愛情か。
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