ダメ男役が光る「岡部たかし」、激太り役作りの「池脇千鶴」も…朝ドラ「ばけばけ」を支える実力派の“怪演”

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朝ドラらしからぬセリフ

 松野家にはもう1人家族がいる。トキの祖父・松野勘右衛門(小日向文世)である。こちらは息子の司之介には厳しいが、トキはかわいがっている。四民平等になっても武士の誇りを持ち続け、マゲを落とさない。

 第5回。トキの小学校中退から10年が過ぎ、1886(明19)年になった。トキは18歳になっていた。ここからは再び高石が演じている。トキは親戚でやはり元武士の雨清水傅(堤真一)が営む織物工場で働いている。司之介の借金を返し続けている。

 ある日、松野家に借金取りの森山善太郎(岩谷健司)が押しかけ、「娘を遊郭にやるか、首くくるか、よう考えておけ」と凄む。朝ドラらしからぬセリフだ。

 森山が去ると、司之介は「心配はいらん、遊郭にやることはないけん」と胸を張る。情けない。一方でトキは松野家の働き手を増やすために「婿様をもらいましょうか」と提案する。本気だ。たくましいのである。

 傅の妻はタエ(北川景子)。トキに礼儀作法やお茶を教える。とびきり家格の高い武家の生まれで、凛としているのだが、やはり痛い人である。お姫さま育ちで、家事が出来ず、言葉も浮世離れしているからだ。意外や北川は堤と初共演。朝ドラ出演も初となる。

 今後はヘブンを公私ともに支えた松江の英語教師・錦織友一役で若き名優の吉沢亮(31)が出演する。モデルは松江一の秀才と呼ばれた西田千太郎だ。下級武士の家に生まれ、旧制松江中学校の中退を余儀なくされたものの、やがて同中の授業助手に採用され、さらに独学で教員検定試験に合格する。

 八雲を英語教師に迎えたのは西田。八雲とセツの媒酌人も務めた。教育改革に取り組み、島根教育界の大功労者と讃えられた。だが肺病のため、36歳で他界する。ドラマチックな錦織の人生も耳目を集めそうだ。

 主題歌は佐藤良成と佐野遊穂の夫婦デュオ「ハンバート ハンバート」の「笑ったり転んだり」。1998年に結成されたが、作品がドラマの主題歌になったことはなく、知る人ぞ知る存在だ。特徴は温かで静かな曲調。2人の間には子供が3人いる。

「あさが来た」(2015年度後期)で「365日の紙飛行機」を歌ったAKB48以来、ほとんどがメガヒットを生み出したことのあるアーティストが起用されてきたから、この点も朝ドラっぽくない。

 トキのモデルのセツが八雲と入籍したのは1896(明29)年。八雲はトキを慈しみ、自分の著書は全てセツのお陰で書けたと言った。「みなあなたのおかげで生まれましたの本です」(八雲の長男・小泉一雄氏著『父小泉八雲』)

 セツも八雲の役に立つことが喜びだった。子供も4人生まれた。やっと手にした幸せだった。しかし1904(明37)年、八雲は心臓発作のため、54歳で急死する。

 セツは八雲が好きだったクリーム色の薔薇を霊前に供え続けた。トキとヘブンの物語はどうなるのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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