ダメ男役が光る「岡部たかし」、激太り役作りの「池脇千鶴」も…朝ドラ「ばけばけ」を支える実力派の“怪演”
全編にユーモア
朝ドラことNHK連続テレビ小説の新作「ばけばけ」が、異彩を放っている。朝ドラっぽくない。没落士族の悲哀を描いたり、貧しさから売られていく人々の嘆きを捉えたり。それでいて全編にユーモアが漂っているから、暗さはなく、後味もいい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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「ばけばけ」に出てくるのはちょっと痛いが、愛すべき人たちばかり。物語には貧困や人身売買などダークな一面も出てくるものの、全体的には明るい。登場人物たちがたくましく、悲壮感とは無縁だからである。脚本は演劇界出身のふじきみつ彦氏(50)。この人の持ち味がよく出ている。
ふじき氏は遠藤憲一(64)ら助演俳優の哀歓を描いたテレビ東京「バイプレイヤーズ」(2017年)などを書いてきた。世の中の真ん中にいない人たちの人間模様を得意とする。
NHKでは「阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし」(2021年)などを担当した。朝ドラや大型ドラマとは縁がなかった。これも朝ドラっぽさを感じさせない理由だろう。
ヒロインは松野トキ(高石あかり)。そのモデルは島根県松江の没落士族の娘・小泉セツ(1868~1932年)である。夫はレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)。こちらのモデルは怪談本などを書き残した随筆家・小泉八雲(1850~1904年)。帰化前の名前はラフカディオ・ハーンである。
主演級の著名俳優を主人公に据えず、成長株を起用したのは「舞いあがれ!」(2022年度後期)の福原遥(27)以来のこと。この点も最近の朝ドラっぽくない。
高石は2892人が参加したオーディションで選ばれた。演技力には以前から定評があったものの、主演ドラマの経験は民放深夜作品しかなかった。
物語は1900年前後のヘブン邸から始まった。明治30年代後半である。場所は東京の大久保。トキがヘブンに「耳なし芳一」を口頭伝承していた。
物語では特に説明がなかったが、2人は夫婦である。ともに再婚だ。トキはヘブンとの結婚までに苦労を重ねた。ヘブンと出会ったときも彼の身の回りの世話をする女中だった。だが、やがて結ばれる。
トキから「耳なし芳一」を聞かせてもらったヘブンには分からない点があった。「たちまち」という言葉の意味である。トキは困った顔で「インスタントリー(即座に)」と答えるが、ヘブンにうまく伝わない。
トキは「私にもっと学があれば……」と口惜しがる。学校へ行けなかったのは家が貧しかったためだ。しかし、ヘブンはトキに対し、学がないのは恥ではないと諭す。トキに怪談本など自分の著書を見せながら、こう言った。
「これ、誰のお陰で生まれた本ですか? 学のある人なら、幽霊の話、お化けの話、前世の話など、みんなバカらしいものだと、あざ笑ったでしょう」
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