台湾有事を正面から描いたドラマ「零日攻撃」が話題…“台湾人になった元日本人”が中国人民に「台湾侵攻」についてのホンネを尋ねると

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常に監視され、スマホに侵入される

 まず飛行機で台北から香港へ渡り、バスで中国本土との境まで行った。香港も中国の一部だが「一国二制度」による事実上の国境でパスポートコントロールがある。そこで台胞証を見せるとあっけなく入国できた。深センから最終目的地の厦門までの高速鉄道のチケットは、予約サイトで台胞証の番号を入力すれば購入できる。台胞証には日本のマイナンバーカードのような機能があり、駅やプラットホームへの出入りもこれ一枚で済んだ。2018年に私が最後に日本人の身分で中国を旅行した時は、辺境を旅していたこともあったが、事ある毎に特別室に連れて行かれるなど、嫌な思いをさせられることも多々あった。

 しかし、裏を返せば、筆者の行動データは台胞証を通して中国当局へ送られ、いつ、どこに滞在しているか一目瞭然なわけだ。旅行者にとって便利な半面、中国政府にとっても監視に便利な仕組みである。実際、旅行の3日目には、台湾から持ち込んだスマホの液晶画面上を謎の「青い枠」が勝手にスクロールするようになった。変えた覚えのない設定変更がなされ、文字入力が滞るといった不具合にも悩まされた。
 
 明らかにスマホに侵入されている。筆者は香港の通信会社を通じて台湾のスマホを使っていたので、おそらく中国当局が「外国のスマホであろうと、いつでも監視できるぞ」という警告を送ってきたのだろう。背筋が凍る、憂鬱な気分になった。

「台湾人は優遇されている」

 こういう嫌がらせを受けるくらいなら、どのみち監視されるのだから中国の通信会社と契約したほうがよさそうだ。台湾の対岸、福建省の厦門の港にある「通商特区」内の携帯ショップへ向かった。他の街では住民票などが必要と言われたが、ここでは台胞証さえあれば中国の携帯番号とスマホ決済のための銀行口座も開くことができた。

 外国人に対する規制が厳しい中国で、台胞証のメリットはやはり大きいと感じた。特に大陸でビジネスをしたい台湾人にとって便利な仕組みであることは間違いない。実際、携帯ショップの女性(40代)は、「台湾人と厦門人の違いは何ですか」という筆者の質問にこう答えた。

「同じよ。でも、台湾の人の方が中央(北京)政府から優遇されてるでしょう? こちらに移住した台湾人は商売をしやすかったり、子供も良い学校に入りやすかったり。私たち厦門人は競争が激しくて、子供の受験も大変だというのに」

 この女性以外にも、一般の中国人たちの声を拾ってみた。筆者の中国語が台湾訛りであるせいか、日本人と思われることは一度もなかった。ちなみに台湾では、公用語である北京語の他に現地語としての台湾語がある。話すのは年配の人が多く、若い世代には聞くことはできても話せない人もいる。厦門がある福建省の方言、ビンナン語は、基本的に台湾語と同じ言語である。

 高速鉄道の隣席に座っていた20代前半くらいの女性二人組は、見た目も台湾の女性にそっくりだった。「台湾当局は中国軍が侵攻してくるのではと心配しているよ」と話を振ると、「私は人民解放軍を信じている。彼らがいるから、私たちは戦争のことなどを考えなくても平和に暮らしていける」という、やや焦点のずれた返答が返ってきた。

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