別れた“浮気夫”と森で再会する奇妙な夢 記憶の地を再訪したとき、30代女性は「答え」に気づいた…【川奈まり子の百物語】

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【前後編の後編/前編を読む】浮気発覚で離婚から3年後 「30代サレ妻」に元夫から届いた不穏な小包の中身は…

 これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集し、語り部としても活動する川奈まり子が世にも不思議な一話をルポルタージュ。

 離婚経験のある30代の結美さん(仮名)のもとに、浮気で別れた元夫から届けられた荷物の中身はロープと、かつて夫婦で出かけた料亭のパンフ。浮気相手とも訪ねたであろう郊外の隠れ家的料亭と、その日のドライブの記憶が夢で何度も思い出されていた結美さんは、荷物を開けた日から“夢の続き”を見る。森に消えた夫、女の悲鳴……夢の中で、結美さんはなぜか“元夫も、あの悲鳴の主も、すでに死んでいる”と直感する。

 ***

 震える脚を励まして、這うようにして車に乗り込み、エンジンを掛けようとして――

 目が覚めると同時に、ベッドの周りで人の気配がどよめいた。

 1人や2人ではない、数名の人間が、いる。
 
 見知らぬ人々が立てる衣擦れの音、息遣い、かすかな溜息が薄暗い室内に流れ、床が小さく軋む。

 うち1人は彼女の枕もとに立っていて、それが元夫だということが彼女にはなぜか察せられた。

 彼は身をかがめ、彼女の耳もとで「来たらわかるよ」と優しく囁いた。
 
 恐怖のあまり声も出ず、無我夢中で飛び起きると、静寂に満たされた寝室には人影もなく、今まで誰かがいた痕跡も見当たらなかった。
 
 しかし、すべてが夢ではない証拠に、ゴミ箱に捨てたはずのロープがベッドの足もとに落ちていたのである。

真実を探して

 次の休日に、結美さんは、例の八王子市の峠道を訪れた。

 迷っているうちに午後になってしまい、自分の車を運転して1人で来てみれば、到着したときにはすでに黄昏どきであった。

 昔、元夫が車を停めた辺りに停車して、エンジンを切った。

 このエリアは「奥高尾」と呼ばれる、八王子市の中でも辺鄙な場所だ。市内随一の観光スポットである霊山・高尾山の山系に入るのだろうが、車通りは少なく、路肩に駐車しても通行の妨げにはならなそうだった。

 民家から遠く、人も滅多に来ないようだ。

 車を降りて周辺を見回してみたけれど、どこか遠くで鴉が鳴いただけで、いたって静かである。

 カーナビの履歴と結婚記念日の出来事から、元夫は、こういう場所に女性たちを誘うことを好んでいたのは間違いないと考えられるが……なぜだろう?
 
 特に景色が優れているわけでもないのに。

 じわり、と、日が翳った。

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