浮気発覚で離婚から3年後 「30代サレ妻」に元夫から届いた不穏な小包の中身は…【川奈まり子の百物語】
意外な郵便物
結美さんの心の傷は深く、離婚後もたびたび峠道の夢を見た。
夫の愛車に乗って2人で峠を走り、やがて道端に停車する。底知れぬ暗闇を抱いた木立ちに押し包まれた山奥で、気がつくと、夫の姿が消え、独りぼっちで助手席に座っているのだ。
この夢は次第に間遠になり、やがて離婚しなければ8回目の結婚記念日だった日が巡ってくる頃にはすっかり見なくなった。
あれから約3年。社会もおおむね平常に戻り、勤務先から元の通りに出社を課されるようになって久しい。
離婚後も結美さんは引っ越さなかったので、時計の針が結婚前の独身時代に巻き戻されたかのように感じることもしばしばあった。
そんなある日、突然、元夫から小包が送られてきた。
およそ30センチ四方の四角いダンボール箱が宅配便で自宅に届き、何かと思えば差出人の欄に元夫の名前が記されていたのだ。
結美さんは戸惑った。
まず、急に送り付けてきた意図がわからない。
離婚直後なら、家を出ていくときに誤って持ち出した結美さんの物を返して寄越したのだろうと見当がつく。
だが、3年も経っている。
誕生日や何かの記念日でもない。
箱は羽のように軽く、振るとカサカサと乾いた音を立てた。
嫌がらせで変な物を送ってきた? しかし元夫に憎まれる筋合いはなく、遺恨なく別れたはずだ……。
未読スルーのLINE
突き返した方が無難だろうが、あいにく彼女は好奇心旺盛な性質だった。
だから、おっかなびっくり開けてみたのだが。
「えっ?」
思わず声が出てしまった。
箱の底で剥き出しのロープがとぐろを巻いていたのだ。
その下に、見覚えのある料亭のパンフレットが1部。
ロープの長さは180センチぐらいで、彼女は咄嗟に首吊り自殺を連想した。
「これで死ねっていうこと?」
独りごちながら、料亭のパンフレットをためつすがめつしたが、どこにも変わったところは見受けられなかった。メモが書き込んであるわけでもなく、他には手紙も何も無い。
どんな意図でこんなものを送ってきたのだろう。考えてもらちがあかないので、気は進まなかったけれど、元夫にLINEで訊ねてみた。
しかし一向に既読がつかず、仕方なく電話をかけてみたが、「おかけになった電話は、電波の届かない場所にある、または電源が入っていないためかかりません」というアナウンスが応えるばかりだった。
結美さんは元夫の職場や実家に連絡するほどのことでもないと判断して、ロープとパンフレットをゴミ箱に捨てた。
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