男女2人死亡の放火殺人で「無罪判決」も被告自身が「おかしい」と泣き崩れ…刑法39条の見直しを求める声に精神科医は「日本では議論が深まったことがない」

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 FNNプライムオンラインは9月18日、「【無罪判決】『異常な幻覚、妄想の圧倒的な影響のもと犯行に突き進んでしまったと認められる』共同住宅に放火し男女2人を殺害した罪に問われた被告は判決に『おかしい、2人の命を奪っているんですよ』〈北海道〉」との記事を配信した。荻野正美被告(70)は北広島市にある生活困窮者向けのアパートに住んでいたが、2022年9月に自室に火を付け、管理人と女性入居者を殺害したとして現住建造物等放火と殺人の罪に問われていた。

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 9月17日、札幌地裁で裁判員裁判による判決が下された。結果は──無罪。

 2人の命を奪った被告に無罪判決が言い渡されただけでも衝撃を受けるが、さらに法廷では極めて珍しいことが起きた。担当記者が言う。

「無罪だと聞いた荻野被告が、自らに下された判決について『おかしい、2人の命を奪っているんですよ』と疑問を口にし、泣き崩れたのです。一部の地元メディアは、荻野被告が泣く姿に法廷がどよめいたことも報じました。被害者の遺族が無罪判決に強い疑問や憤りを口にすることはありますが、加害者が『なぜ自分は無罪なのか?』と判決を真っ向から否定するのは非常に珍しいと言えます」

 判決では荻野被告が「急性一過性精神病性障害」だったと認定した。弁護側は被告が事件当時、「アパートの入居者が次々に殺されており、自分も殺されるという妄想に支配されていた」と主張していた。

「札幌地裁は荻野被告の精神疾患を認め、次に刑法39条の規定に従って無罪判決を下しました。39条はまず『心神喪失者の行為は、罰しない』と定めています。心神喪失とは重度の精神障害や知的障害などが原因で行為の善悪や是非についての判断が全くできない状態を指します。また39条は『心神耗弱者の行為はその刑を減軽する』とも定めており、心神耗弱とは善悪や是非の判断が著しく困難な状況を意味します。これが実際の判決にどう適用されるかと言えば、裁判所が『被告は心神喪失状態で刑事責任能力は問えない』と判断すれば無罪判決、『被告は心神耗弱状態で責任能力は限定的』と判断すれば減刑が行われます」(同・記者)

留置所で回復した可能性

 札幌地裁は精神鑑定などを参考にし、荻野被告に刑事責任能力が全くないと判断した。そのため無罪判決を下したということになる。だがXでは異論が相次いだ。

《男女2人殺して無罪か》、《うわ司法おかしいわ》、《現行精神保健福祉法がおかしい》、《(編集部註:被告が泣き崩れたことから)責任能力あるだろ》、《いったい裁判って何が正義で何が正常なんですかね》──。

 精神科医で、昭和医科大学特任教授の岩波明氏は『精神障害者をどう裁くか』(光文社新書)などの著作がある。岩波氏は「判決時の被告は、急性一過性精神病性障害の症状が快方に向かっていた可能性があります」と解説する。

「急性一過性精神病性障害は病名の通り、統合失調症と似た妄想や幻覚などの精神病の症状が突然出現する精神疾患です。被告のような高齢者が罹患することは珍しくなく、短期間で自然に回復することもあります。事件発生が2022年9月で、判決公判が25年9月ですから、約3年間拘置所に留置されていたと考えられます。留置中に症状が改善した可能性もありますし、治療薬を服用していたとしても不思議はありません。事件当時は精神疾患の症状が原因でアパートに放火しましたが、判決時は正常な判断能力を回復していたため“無罪”という判決に違和感を表明したということになると思います」

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