男女2人死亡の放火殺人で「無罪判決」も被告自身が「おかしい」と泣き崩れ…刑法39条の見直しを求める声に精神科医は「日本では議論が深まったことがない」
イギリスとの差
ネット世論だけでなく、一部の評論家や法曹家からも「刑法39条は見直すべきではないか」との意見が出ている。
だが岩波氏は「刑法39条を根本的に改正しようという動きは、これまでまったくありません。厳罰論は繰り返し唱えられますが、精神障害と犯罪の問題について、しっかり議論を深めようとする試みもありません」と指摘する。
「精神疾患を原因とする凶悪事件が発生し、無罪判決が下ったりすると、一時的に世論は活発化します。しかし継続性はありません。例えばイギリスと比較してみましょう。イギリスでは国会に常設の委員会が設置されており、精神障害者による犯罪の問題について繰り返し調査と議論が行われ、毎年報告書を発表しています。殺人などの重罪で判決が確定した精神障害者を治療する『特殊病院』であるブロードモア病院は世界的に有名で、私も視察したことがあります。ここで注目したいのはブロードモア病院が創立されたのは1863年だったことです。日本では幕末期の元治元年にあたり、下関戦争が起きた時代でした」
岩波氏によると、ブロードモア病院のような危険な犯罪者の治療にあたる“医療刑務所”を運営するとなると、必要な医師や看護師の数は通常の病院より4倍は必要だという。
座敷牢の時代と変わらない現実
「それだけのコストをかけて、イギリスは『精神障害者による犯罪』に対処しています。翻って日本はどうでしょう。現状は各地の専門病院に丸投げと言っていい無責任体質で、予算も人員も全く足りていません。世論は線香花火のように一瞬だけ盛りあがりを見せますが、一過性のものです。国会議員も票にならないので動きません。かつて日本で精神病に罹患した患者は長らく座敷牢に閉じこめられてきました。しかしイギリスの現状と比較すると、今でも日本には座敷牢的な処遇が横行していると言えるのではないでしょうか」(同・岩波氏)
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