秋ドラマ屈指の注目作「菅田将暉」主演 バブル前夜「1984年」東京・渋谷の青春群像劇への期待
野木氏はSFで勝負
三谷氏は1984年を描くことにも価値を感じている。
「(当時は)永遠の未来がある気がして。あの時代そのものにそんな雰囲気がありました」(TVerの三谷氏のインタビュー)
何をやってもOKだと思えたという。バブル前夜の好景気が背景にあったからだ。さまざまな選択肢が用意されていた。
サブカルチャーにも活気があった。小劇場ブームが起きたり、角川映画が映画界全体に刺激を与えたり、インディーズバンドがブームを迎えたり。
しかし、1991年にバブルが崩壊すると、バブル前夜もバブル期も全て否定的に捉える風潮が続いた。だが、サブカルの隆盛などあの時代にもプラス面はあった。
当時の青春の輝きがほかの時代より劣るようなこともなかった。三谷氏はそれも証明するつもりではないか。
ただし、大物が脚本を書き、豪華出演陣が演じようが、視聴者が受け入れるとは限らない。半面、秋ドラマ屈指の注目作であるのは間違いない。
落とし穴があるとしたら、半自伝的ドラマであるところか。思い入れが強くなり、普段のスタンスを見失ってしまう恐れがある。過去には大御所が大失敗した例もある。
三谷氏が民放連ドラを離れた25年間の間に現れた「優れた脚本家」の筆頭格は、野木亜紀子氏に違いない。TBS「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年)のようなコメディ色のあるものから、同「日曜劇場 海に眠るダイヤモンド」(2024年)のような文学的作品まで書き、自在型の人である。
その野木氏がテレ朝で書き、大泉洋が主演するのが、「ちょっとだけエスパー」(10月21日スタート、火曜午後9時)。野木氏がテレ朝で書くのは初めて。大泉の同局での連ドラ主演も初となる。
テレ朝は昨年初めて年間個人視聴率3冠王を獲った。視聴率好調の局は組織力や資金力があるから、大物の脚本家、俳優を招きやすくなる。
大泉が演じるのは文太。会社をクビになり、家族にも捨てられ、貯金もないが、「ノナマーレ」という会社に採用される。社長からの業務命令が奇天烈だった。
「君には今日から、ちょっとだけエスパーになって、世界を救ってもらいます」。用意してくれた社宅に行くと、見知らぬ女性が「おかえり」と出迎える。宮崎あおい(39)が演じる四季だ。会社が用意したらしい。四季は記憶喪失のようで、文太のことを夫だと思い込んでいる。
文太が与えられるエスパーとしての能力が明かされるのはこれから。守らなくてはならないルールは「人を愛してはならない」。文太は四季への感情を抑えられるのか。
共演はまずディーン・フジオカ(45)。文太の同僚・桜介に扮する。NHK連続テレビ小説「あんぱん」を終えたばかりの北村匠海(27)も登場する。文太たちに接近する謎の大学生・市松を演じる。たこやき研究会に所属しているらしい。
ただのSFドラマにはなりそうにない。野木氏らしい大掛かりで緻密な仕掛けが待っているのだろう。不安要素があるとすれば、慣れぬテレ朝で仕事をすることか。監督にはTBS「アンナチュラル」(2018)で組んだTBSスパークルの村尾嘉昭氏たちが招かれるが、プロデューサー陣はテレ朝勢である。
岡田氏も新人も登板
やはり大物・岡田惠和氏(66)もフジで書く。同局の春ドラマ「続・続・最後から二番目の恋」に次ぐ登板だ。今度は新作「小さい頃は、神様がいて」(9日スタート、木曜午後10時)である。北村有起哉(51)が主演を務め、妻役で仲間由紀恵(45)が共演する。
誰もが知る北村だが、プライム帯の連ドラ主演は初めて。もっとも、うまい人だから、死角はないはず。ホームコメディで、3階建てレトロマンションに住む3家族の日々を描く。草刈正雄(73)らが共演する。
新人脚本家も書く。及川光博(55)が主演する日本テレビ「ぼくたちん家」(12日スタート、日曜午後10時半)の松本優紀氏である。若き女性だ。2023年度の日テレシナリオライターコンテストで審査員特別賞を受賞した人で、これが初作品となる。
深夜ドラマなどを経験せず、いきなりプライム帯でのデビューは極めて珍しい。しかも漫画等の原作はない。日テレはよほど期待しているのだろう。
及川が演じるのは50歳の心優しきゲイ。ある日、手越祐也(37)が扮する中学教師に恋をする。一方で白鳥玉季(15)が演じる15歳の非行少女から「私、あなたを買います。3000万円で。中学卒業までの半年間、親のフリしてください」と頼まれた。偏見や無理解の中で生きる3人は、愛と自由のある「ぼくたちん家」を得られるのだろうか。
年配者より若者のほうが偏見が薄いとされる点も松本氏が買われた理由かも知れない。核に硬派なメッセージを感じさせ、大化けする可能性を感じさせるドラマだ。大物脚本家への下剋上もあるか。
演劇界の若手スター・安藤奎氏(32)も脚本を書く。夏帆(34)と竹内涼真(32)がダブル主演するラブコメディ、TBS「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(7日スタート、火曜午後10時)である。
恋人最優先だった夏帆と、亭主関白思考の竹内は結婚寸前だったが、夏帆からのプロポーズの答えは「無理!」。2人の関係が再生できるかどうかの物語だ。夏帆のTBS主演は初めて。女性ファンの多さがどう反映されるか。
安藤氏は深夜ドラマの経験はあるものの、プライム帯は初めて。普段は自らが旗揚げした劇団アンパサンドの作・演出を手がける。新人劇作家の登竜門・岸田國士戯曲賞の受賞者だ。演劇界から見出されたという点ではTBSの冬ドラマ「御上先生」の詩森ろば氏(62)と一緒である。
三谷氏も演劇界出身。後輩の前に立ち塞がるのか、それともたじろぐのか。
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