GDPでドイツに負けたのは「当たり前」 ダラダラ働くのをやめないかぎり日本は浮上しない

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長時間労働を是正する前にすべきことがあった

 こうした日独、もっと広くいって日本と欧米の働き方の違いは、筆者も以前から実感している。日本のレストランや居酒屋での店員の動作は、総じてドイツなどにくらべて明らかに緩慢である。筆者自身が企業に勤務した経験からも、日本人は勤務時間こそ長いが、時間当たりの労働生産性はかなり低いという実感がある。

 そうはいっても日本人は、高度経済成長も、バブル景気も、とにかく長く働くことで生み出し、支えてきた、というのが事実である。その際、時間当たりの労働生産性は問われなかった。いわば労働生産性が低い働き方、いわばダラダラと長く働くことが、長い年月をかけて日本人に沁みついてしまっている。

 だから、働き方改革に取り組む際には、長時間労働を是正する前に、一定の時間をかけて労働生産性を高める必要があった。いま「一定の時間をかけて」と記したのは、「長い時間をかけて日本人に沁みついてしまっている」ものを是正するには、それなりの時間がかかるからである。

 じつは働き方改革を進めるに当たっても、長時間労働の是正より先に、労働環境の質と生産性を向上することが謳われていた。しかし、現実にはほとんどの職場で、とにかく時短を進めることが優先された。するとどうなるか。もともと日本人は時間当たりの労働生産性が低いのだから、労働時間を少なくした分、日本全体の生産性が著しく低下することになってしまう。そしていま、そうなっている。

時短先行では「失われた30年」が続く

 いわゆる「2024年問題」も同様である。2024年4月から運輸、建設、医療の分野で残業時間の上限を定め、労働時間を減らす「働き方改革」が断行された。その結果、「いままでのように荷物が届かない」「バスの運行本数を維持できない」「建設費用が高騰し、さらの工事も遅れる」「必要なときに必要な医療が受けられない」という問題が生じている。

 これでは「失われた30年」を回復するどころか、さらに深刻に失われ続けることになってしまう。

 この手の改革は、日本の未来を大きく左右するので、決して急いてはいけなかった。目的は、労働時間は短くても持続的に成長できる日本を築き、日本における生活の質を、時間的にも物質的にも豊かにすることにあったはずだ。そうであるなら、労働時間を減らしても経済的な影響が生じないようにするために、日本の労働生産性をどうやって、どこまで高めたらいいか、まずはきちんとシミュレーションする必要があった。そして、高い労働生産性を得られる道筋を整えたうえで、労働時間を短縮すべきだった。

 ドイツ1万4,341円に対して日本8,441円という労働生産性の差を放置して、労働時間の短縮だけを進めれば、日本はどうなってしまうか火を見るより明らかである。結果的に、日本の豊かさはさらに失われ、人々の生活は追い詰められていく。いまからでも時短が先行する働き方改革を見直し、まずは意識改革をふくめた労働生産性の向上に取り組むべきではないのか。それができないかぎり、おそらく日本に未来はない。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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