カップ麺、ホットケーキ、ガリガリ君…末期がんでも大好きなものを食べ続けた夫 倉田真由美「ひとつ大きな後悔」

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夫らしくない言葉

 NetflixやU-NEXTなどで映画もよく見ていました。肩もみも毎日「やって」と言われ、私がやっていました。私が座って、夫の肩を揉みながらテレビや映画を見る、幸せな日常でしたね。

 夫は体の調子が悪くなってからも、亡くなる2か月前くらいまで、フローリングワイパーでの掃除や皿洗いなどの家事をやってくれていました。夫は「家族のため」とか「私の負担を減らすため」という深い意味でやっていたわけではありません。ただ、自分の役割だからと、何も考えずに淡々とこなしていたのだと思います。そうした深い意味がない行動に、なんかグッと心を動かされるんですよね。

 病状が悪化してからは、「ありがとう」や「ごめんなさい」といった言葉を口にするようにもなりましたが、本当はそういう言葉を聞きたくなかったですね。夫らしくなく、喜べなかったです。

 あと、夫にとって食事も特に大事なことだったと思います。好きなものを好きなように食べていました。

 カップ麺をよく食べては、後でお腹を痛くすることが多かったので、ついイライラして「なんで食べちゃうの?」と声を荒らげてしまったこともありました。食べたいから食べているのに、かわいそうなことを言ってしまったなと後悔しています。

 ホットケーキに大量のバターとメープルシロップをかけるのも好きでしたね。「なんでそんなにぶっかけるの?」と思うほどで、メープルシロップの瓶が半分なくなるぐらいかけ、バターもすごい量をのせる。後で、お腹を痛がる夫を見て呆れることもありました。

 最後のほうは毎日、アイスキャンディ「ガリガリ君」を食べていました。夫はソーダ味を好んでいましたね。がん患者さんは「ガリガリ君」を好むことが多いと先生から聞いたことがあります。

 ひとつ大きな後悔があります。夫が亡くなる前日に、当時出ていたファミチキ(ファミリーマートのチキン)のタルタルソース味を食べたいと伝えてきたんです。私が近くのファミマに買いに行ったのですが、そこにはありませんでした。どうして、別のファミマに探しに行かなかったんだろうと今でも思っています。

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 第5回【最愛の夫の「死」とどう向き合ったのか 倉田真由美、LINEや電話番号は生かしたまま…今も音楽は「泣かずに聞けない」】では、夫の死とどう向き合ってきたかについて語っている。

倉田真由美
1971年、福岡県出身。漫画家。一橋大卒業後、『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセーを手掛ける。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。近著に『抗がん剤を使わなかった夫』(古書みつけ)がある。9月30日には「本屋 B&B」にて『夫が「家で死ぬ」と決めた日』 発売記念イベントを開催予定。

デイリー新潮編集部

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