【べらぼう】まるで北朝鮮や旧東欧諸国? 松平定信の文武と倹約奨励による恐ろしい文化破壊
松平定信の逆鱗に触れて絶版に
日本橋通油町の耕書堂に町奉行所の与力と同心が小者を従えて押しかけ、出てきた蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)に告げた。「このたび『鸚鵡返文武二道』『天下一面鏡梅鉢』『文武二道万石通』の3作を絶版とする」。同時に役人たちは耕書堂に押し入り、くだんの3作を残らず没収していった。NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の第36回「鸚鵡(おうむ)のけりは鴨(かも)」(9月21日放送)。
【写真】お尻もあらわに…“何も着てない”衝撃シーンを演じた「元宝塚トップスター」&「セクシー女優」 ほか
その前に松平定信(井上祐貴)が、寛政元年(1789)正月に出された恋川春町(岡山天音)作『鸚鵡返文武二道』に激怒し、びりびりに破り捨てる場面があった。前年、すなわち天明8年(1788)正月に刊行された朋誠堂喜三二(尾身としのり)作『文武二道万石通』も、定信の政治を皮肉った黄表紙だったが、定信は皮肉に気づかず、むしろ自分の政治が讃えられていると誤解した。
だが、春町による続編(「鸚鵡返」は続編を意味する)は、定信の政治がいっそう露骨に揶揄されていたので、さすがの定信も気づいて激怒し、取り締まりを命じたわけだ。腹心の水野為長(園田祥太)に向かって、「これはもはや謀反と同じである」と言い切る台詞が印象的だった。
問題の『鸚鵡返文武二道』とは、以下のような内容だった。
時は醍醐天皇の御代。ぜいたくの流行を憂えた補佐役の菅秀才は、源義経を起用して人々に武芸を指南させる。ところが武芸の意味が伝わらない。牛若丸の千人斬りを真似して人々に斬りかかる者がいれば、乗馬の訓練だといって女郎や男娼に馬乗りになる者も現れる。そこで秀才は、自著『九官鳥の言葉』を教科書に道徳を教えようとするが、本に書かれた「天下国家を治るは凧をあげるようなもの」というたとえが、凧を上げれば国が収まるものと読み違えられ、みな熱心に凧を上げはじめる――。
菅秀才は梅八紋から定信なのが明らかで、『九官鳥の言葉』も定信がみずから書いた教諭書『鸚鵡言』を茶化しているのが明白。こうして、たちまち取り締まりの対象になってしまった。その結果、江戸文化の担い手から武士が退場し、時代は節目を迎えることになる。
[1/3ページ]


