「家で死にたい」夫の願いを叶えた漫画家・倉田真由美 すい臓がんステージ4、標準治療を選ばなかった夫婦の選択

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がんと共存

 2024年2月、夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)をすい臓がんで亡くした漫画家・倉田真由美さん(54)。叶井さんは2022年6月にステージ4の末期すい臓がんと診断されたが、抗がん剤治療などの標準治療は選ばず、がんと共存しながら好きなことをして生きることを決めた。倉田さんは自宅で夫の最期を看取った。その体験を綴ったのが、最新刊『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』(小学館)だ。(全5回の第1回)。

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 夫は生前から「俺のこと描けば」と、半分からかうような調子で私に話していました。しかし、当初、夫の病気のことを世間に公にすることや、その闘病の様子を文章にしたり漫画にしたりすることは、絶対嫌だったんです。

 ですが、夫がすい臓がんだとわかり、日々を共に過ごす中で、気持ちが変化していきました。でも、ある時、気づいたんです。「今、私が一番人に話したいことって、夫の話だ」と。それから、描き始めました。

 今、Amazonで無料公開している漫画もそうですし、情報サイト「介護ポストセブン」で始めた連載も、すべては夫のことを書き残すためでした。

 今回の本でも書きましたが、夫を在宅で看取るということは、私の人生にとって本当に大きな経験でした。その経験を知ってもらいたいなという気持ちがあります。

 日本では、在宅死を望む人が半数近くいるにもかかわらず、実際にそれが叶うのはわずか2割程度に過ぎません。ほとんどの人が、見慣れない病院の天井や、よく知らない医者や看護師に見守られながら亡くなっていきます。

 もちろん、そうした選択をしたい方を否定するつもりはありません。ただ、私たち夫婦のように「家で家族に囲まれて死にたい」と願う人々にとって、情報が著しく不足しているように感じました。

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