知られざる「コミケ離れ」の裏事情…「酷暑」「ホテル代の高騰」以上に大きい“ファンの公式志向”という要因

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 8月16日~17日に開催された世界最大の同人誌即売会「コミックマーケット106(以下、コミケ)」の来場者が約25万人だったと発表された。この数が、前回より約5万人も減少しており、ネットを騒がせている。なお、昨年の夏に開催された「コミックマーケット104」は約26万人だったため、シーズン比でも約1万人の減少といえる。

 この減少については、同人誌を頒布する“サークル”の数が、会場となった東京ビッグサイトの工事によって約6000スペース減少したことも要因の一つと言われている。様々な事情があるようだが、オタクの価値観の変化や同人誌離れにより、コミケが徐々に衰退に向かっているという意見も聞かれた。【取材・文=宮原多可志】

コミケの売り上げが減った

 コミケ当日の会場を撮影した写真を見てもわかる。かつて、コミケの会場といえば参加者でスキマがないほどぎゅうぎゅうになっているイメージが見られた。最近のコミケは混雑こそしているものの、余裕があるように思える。コミケに30年ほど参加し、頒布の際には列ができる“大手サークル”と呼ばれる漫画家はこう話す。

「私もそうですし、周りのサークルを見ても、壁サークル(行列ができるため、同人誌を頒布するスペースが壁に配置されるサークル)を見ても、明らかに以前ほど列ができていない。いい意味で捉えると、初心者でもコミケは参加しやすくなった印象があるし、殺伐とした雰囲気はなくなりました。

 10年前と比べたら、同人誌の売り上げはかなり減ったという意見が聞かれます。一昔前は同人作家がコミケの売り上げでマンションを買ったとか、高級車を買ったという声もあったのですが、今ではそういった景気のいい話は聞かれません。実際、羽振りの良い同人作家はほとんどいないのではないでしょうか。

 秋葉原の同人誌ショップも相次いで閉店しているし、同人誌の印刷所も次々になくなっている。時代の変化といえばそれまでですが、同人誌が斜陽なのは間違いない。そもそもネットなら漫画もタダで読めるし、イラストもいくらでも見ることができる。そんな時代に500~1000円の同人誌は高いと感じてしまうのかもしれませんが……」

ホテル代の高騰は地方民に痛い

 コミケが衰退しているのは、複合的な要因があるようだ。大きな影響の一つがコロナ禍であろう。コロナ禍に開催が中止に追い込まれたことがあるし、一時期はコロナ対策の一環として入場制限が設けられた影響で、このタイミングでコミケを離れてしまった人が増えたのだ。そしてさらに、ここ最近の夏場は酷暑のため、参加をためらう人が増えているなどの説が挙げられている。

 また、交通費の値上げ、宿泊料金の高騰は、地方在住者にとって深刻な問題である。コロナ禍が収束し、インバウンド観光客が増加したことで、東京都内のホテルの宿泊料金は軒並み上昇した。コミケは盆や年末に開催されるため、もともと都内ではホテルの確保が難しかったが、観光客の増加がそれに拍車をかけ、宿泊難民が続出した。

 ある大手ビジネスホテルチェーンの宿泊料金は、コロナ禍の前と比べると、シングルで3000~5000円ほど値上がりしているといわれる。コミケの時期は多客期ということで、シングルが2万~3万円もするホテルもある。夜行バスの料金も値上がりし、地方民が参加しやすいイベントではなくなった。

 また、SNSで多く見られる、コミケ来場時の注意を促す投稿も、かえって初心者を参加しにくくしているという意見もある。「列に並ぶ」「暑い(寒い)」「大変」など、まるで苦行のようなイメージがつきまとい、コミケ参加を避ける要因になっているというのである。

 そのうえ、コミケの壁サークルの場合、早朝の電車で来場し、数時間並んでも、以前ならお目当ての本を買えないことは珍しくなかった。ところが、今は同人誌をネットで発表する人や、電子書籍化する例も増えている。純粋に本を手にしたいだけであれば、わざわざ会場に足を延ばす必要がなくなったといえる。

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