知られざる「コミケ離れ」の裏事情…「酷暑」「ホテル代の高騰」以上に大きい“ファンの公式志向”という要因
オタクの公式志向が強まっている
コミケに出展する同人サークルが頒布するものは、オリジナルの漫画やグッズ、評論、研究など様々である。一概には言えないものの、代表的なものの一つが、いわゆる二次創作の同人誌だ。行列ができるサークルが頒布する同人誌には二次創作が多いことから、来場者が求めているものであることは間違いない。
二次創作は「鬼滅の刃」や「【推しの子】」などの漫画をベースに、同人作家がファン活動の一環として制作した漫画やイラスト、グッズなどであり、いわゆる公式ではない。一方で、昨今のオタクは、公式志向が強まっていることを指摘する声がある。アマチュアが描いたものに魅力を感じられなくなったというのだ。前出の同人作家が言う。
「私は、“コミティア”などのオリジナル作品の展示即売会が活況を呈していることから、決して同人誌即売会という文化は衰退したわけではないと思っています。ただ、コミティアがあれだけ盛り上がっているということは、二次創作に対する興味は以前より薄れてきていると思うんですよ。
以前は公式が出すグッズが極めて少なく、アマチュアが作る同人グッズが需要を満たしていた部分があったと思います。最近では公式のグッズが豊富なので、同人グッズを買う必要がなくなりましたからね。コミケは同人誌を通じてファン同士がつながる場でもありましたが、今ではSNSなど、替わりになる場はいくらでもありますから」
同人サークルの目標がなくなった
コミケ以外のイベントも多くなった。声優のコンサートやイベントなど、オタクが盛り上がれるお祭りのようなイベントが増え選択肢が増えたことも影響しているようだ。こうした選択肢が増えたことは、オタクにとってはかなり良いことだと思われるが、相対的にコミケの参加者が減少する要員になっているようだ。
コミケに参加する同人作家には目標があった。ゆくゆくは壁サークルになり、将来は大手サークルの中の大手サークルといえる“シャッター前”にステップアップするのである。シャッター前は行列を外に流すほど人が集まる、まさに選ばれし同人作家なのだ。近年、そういった壁サークルのありがたみが薄れたという指摘もある。
「壁サークルは、その分野の人なら誰もが知る同人作家が多かった。コミケのサークルのすべてがとは言いませんが、そういった存在に憧れる人は多かったし、コミケをきっかけに声を掛けられて商業デビューしたり、公式とコラボしたりする例もありました。一種の羨望の対象であったのですが、そういった存在がなくなっているように思います」
そのような事情があるものの、コミケは依然として世界最大の同人誌即売会であり、オタクの祭典だ。これを上回る規模のイベントは、そうそう誕生しないと思われる。今でも、ファン同士が交流できる機会として、かけがえのない存在と考えている人は多い。コミケは時代に合わせて変化してきたが、現在はその過渡期といえるかもしれない。
コミケはコスプレのイベントではない
なお、マスコミが盛んに取り上げるのが、コミケに参加するコスプレイヤーだ。コスプレはあくまでもコミケの一部分だが、コスプレイヤーの写真を載せるとアクセス数が稼げるため、マスコミは写真を掲載したがる。そのせいか、「コミケはコスプレのイベント」と勘違いしている人はマスコミにも多い。
20年ほど前のコスプレイヤーは“キャラへの愛情表現”としてコスプレを行っている人が多かったが、最近は“自己表現”として行われることが増え、地下アイドルなどが自身を売り出す手段としてコスプレをする例も多い。それがいいのか悪いのかは、ここでは言及しないでおきたいが、オタク文化も大きく変容してきているのである。
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