100万円で「自分だけのiPS細胞」が作れる!? 京大と伊藤忠が手がける新プロジェクトとは

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「1人分作るだけで5000万円」

 ノーベル賞受賞者の山中伸弥氏が理事長を務める京都大学iPS細胞研究財団と伊藤忠商事が「マイiPS細胞」を安く作るための専用キットを販売すると日経新聞が報じたのは9月5日のことである。新聞の1面で大きく扱っているほどだから重大事に違いないが、そもそも「マイiPS細胞」とは何なのか。専用キットを発売することは何を意味するのだろうか。

 さっそく、財団に聞いてみた。

「ご存じのようにiPS細胞は、どのような組織や臓器にも“分化”できる細胞です。将来、iPS細胞から作った臓器を移植に使えるようにするためには、自分自身の体から作ったiPS細胞が必要になってくる。拒絶反応がほぼないからです。ところが、現状は作業員が手作業でiPS細胞を作製しており、1人分作るだけで5000万円ぐらいかかる。時間も半年ほど要するので、現実的ではありません。そこで財団では100万円ほどで自分のiPS細胞が作れるキットの開発を進めている。これがmy iPSプロジェクトです」(広報担当者)

 財団は、iPS細胞を研究機関や製薬会社に提供しているが、一般の患者が手の届く価格で医療を実現するのが目的でもある。マイiPS細胞キットはそのための必需品なのだが、キットには専用のチューブや試薬、バッグなどが必要になってくる。

「iPS細胞を使った再生医療全体がミシンだとすれば、キットはパーツです。部品がなくてはミシンも動きませんよね。それを一緒に作って販売してくれるのが伊藤忠さんです。財団は寄付で成り立っているので、資金力がない。そこで伊藤忠さんのネットワークや営業力を使わせてもらうというのが、今回の発表内容なのです」(同)

実用化目前の医療技術

 残念ながら一般人がマイiPS細胞キットを買えるようになったというわけではないのだが、山中氏がiPS細胞の作製に成功してから今年で19年。科学ジャーナリストの緑慎也氏によると、実用化目前の医療技術がいくつも出てきているという。

「すでに目の病気である加齢黄斑変性の患者への移植は成功していますし、心臓病の治療に使える心筋細胞シートは承認申請の段階に入りました。脳の難病であるパーキンソン病では、神経細胞を作製し移植した治験で有効性が確認されています。大きな臓器までは作れていませんが、iPS細胞を必要な細胞に分化させるところまでは実現できているのです」

 人生100年時代が本当に目の前に来ている?

週刊新潮 2025年9月18日号掲載

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