「生成AIが私の声でセリフを読んでも、それは私の芝居ではありません」 声優「緒方恵美」が“声の無断使用”をクリエイターへの冒涜と訴える理由

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最低でもサンプリングの証拠を残して

――生成AIに反対の声を上げている人たちに対し、「技術の進化を妨げている」と批判する声もあります。

緒方:私があるシンポジウムに出演したとき、技術系の方々が、生成AIの進化は重要であり、この分野の若手を育てるために積極的にデータを活用すべきだという趣旨の話をしていました。映画がテレビに市場を奪われていった例を挙げ、技術が進化していく過程で特定の職業がなくなるのは仕方がない、と話していた方もいました。

 私はこう反論しました。「その言い分はわかりますが、私たちの業界も若手を育てる責務があります」「みなさんの業界を育てるために、リスペクトがなく無許可で声が使われ、仕事が奪われるのは看過できません」「リスペクトという意味では、最低でもサンプリングをしている証拠を残すなど、この人の声を使っているとわかるようにすべきだ」と。

 生成AIを使っている、サンプリングを行っているという表示をするだけで、犯罪の抑止力になります。私もコンピューターの進化は素晴らしいと思うし、応援している部分はあります。ただし、生成AIの活用に関しては、何らかの決まりを法的にも制定してほしいと訴えています。

生成AIにセリフを読ませても私の表現ではない

――人と機械の学習は違うという意見がある一方で、生成AIも学習しているのだから同じだという意見があります。緒方さんはどう思いますか。

緒方:何をもって、同じと言われているのか……。例えば、私がとあるセリフをテストで2回しゃべり、本番で同じセリフをしゃべっても、まったく同じにはならない。好きな人を前に「好きです」という告白をあらかじめ口に出そうと思っても、実際には思っていた通りにしゃべれなかったりしませんか?

 その場で目から入る情報、耳から入る情報を受け取り、心が動き、口から出たものが“言葉”なのです。そして、私たちは声優としてそういう芝居をするように努力してきました。心を伝えるためです。

 音楽もCDの音源通りに演奏されるのがいいとは限らない。ライブ会場だからこそ伝わるものがあるし、歌手が初日と翌日で同じ曲を歌っても同じにはならない。時には声がかすれたりするかもしれない。でも、それがよかったりすることもあるわけです。イラストだって、同じ人が同じイメージの絵を何枚か描いても、それぞれ微妙にタッチに違いが出てきますよね。

 機械が拾った私の音をもとに何かのセリフをしゃべらせても、私が演技したものは違う、と明言できます。だから、“生成AIにしゃべらせたもの”を“私の芝居として出される”ことはすごく嫌なのです。私の心が動いて、私の体を通して、口から出た言葉が私の芝居です。生成AIに声を読み込ませて、文字を読ませただけのものは、私の表現ではないのです。

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