「生成AIが私の声でセリフを読んでも、それは私の芝居ではありません」 声優「緒方恵美」が“声の無断使用”をクリエイターへの冒涜と訴える理由
日本のコンテンツビジネスの市場規模は3兆円を突破したといわれ、漫画、アニメ、ゲーム、音楽など、政府は様々な分野を基幹産業として成長させようと意気込んでいる。しかし、懸念されるのが生成AIの進化である。クリエイターの仕事を奪うと言われるだけでなく、クリエイターが生み出したものを無断で使用、さらには悪用される可能性が指摘されている。
【問題提起】“声は商売道具。勝手に使うな”「NO MORE 無断生成AI」を訴える声優たちの姿
「幽☆遊☆白書」の蔵馬や、「新世紀エヴァンゲリオン」の碇シンジ役で知られる声優の緒方恵美氏は、生成AIの活用方法について警鐘を鳴らす。声優の声を無断で取り込み、作成された音声データが既にネット上で販売されているだけでなく、ディープフェイクの作成や犯罪に悪用されるなどの問題について、SNSやシンポジウムなどで発言を行っている。
世界に誇る日本の漫画、アニメ業界に生成AIが与える影響とは、いかなるものなのか。前回に引き続き、緒方氏に話を聞いた。【文・取材=山内貴範】(全2回のうち第2回)
リスペクトなく声を使わないでほしい
――前回、緒方さんがおっしゃっていたのは、生成AIによって若手声優は技術研鑽の場がなくなり、ベテラン声優はその知名度を悪用され、声を犯罪に使われる懸念があるということでした。
緒方:声が犯罪に使われることは、声優の間でもっとも不安視されています。私の声を、私が知らない間に詐欺に使われていたら本当に恐ろしいですよ。国内はもちろんですが、海外でも。
世界中に日本のアニメ・声優ファンはいます。既に、私の声を使ってしゃべらせているサイトが海外にある。だからこそ、そうした犯罪が起きないよう、生成AIについては何らかの形で国に規制を行っていただきたいという思いが強いのです。
――ネット上には、声優の声を集めて作成された生成AIの音声データが販売され、それをファンが楽しむ目的で使っている例があります。「〇〇さんに歌わせてみた」とか、「〇〇さんにこんなセリフをしゃべらせてみた」という動画を作る文化ができあがってしまっています。
緒方:かつてCDが発売されたとき、高音質な音楽を簡単にコピーできてしまう懸念がありましたが、ジャケットには個人で楽しむ分には問題ないという文言があったと思います。生成AIも個人で楽しむ分には、もしかしたら、遊びとして許されるかもしれません。
しかし、それを誰でも見られるネットに上げるのは、個人の娯楽の範疇を超えていると思うのです。そのうえ、微々たるものであっても、収益が上がっているならもっと問題でしょう。絵もイラストも同じですね。ルールがなければ、オリジナルを作った人にリスペクトがない状態で使われ、収益に結びつけられてしまう。この状態はおかしいと思います。
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