本人が知らぬ間に「卑猥なセリフをしゃべらされる」ことも…声優「緒方恵美」が生成AIに警鐘を鳴らす理由 「若手を育成する場も、声優としての仕事も奪われかねない」
一般の方が無断で声を使うようになった
――そして、今は緒方さんが心配していたことが現実になっています。
緒方:ここ1~2年の間に、一般の方が声優の声をアニメなどから無断で拾って生成AIに学習させ、自由にしゃべらせることができるようになりました。私の声を使った動画がYouTubeに上がっているのを、ファンが教えてくれたこともあります。また、ある声優は、生成AIで卑猥なセリフをしゃべらせた動画が作成されていたそうです。
このように、声優本人がしゃべっていないセリフをしゃべらせた動画を作られる事例が、既にたくさんある。先日もブラッド・ピットさんの映像を使ったフェイク動画が作成され、巨額のお金を盗られる被害に遭った人がいましたが、顔出しの俳優さんは顔を、我々は声を犯罪に使われる可能性がある。そんなことが現実に起こり始めています。
――フェイク動画は世界的な問題になりつつあります。緒方さんの話を聞いていると、日本でも、重大な被害が出る前に何らかのルール作りが必要だと思います。
緒方:既に、国ごとに生成AIの使い方に関するルール作りが始まっています。韓国では、無断学習は完全にNGだそう。アメリカは州によって今は違いますが、統一した基準を作ろうと動き始めているそうです。ところが、日本は現時点で明確な法的な縛りがないんですよ。だから声優の有志で、ルール作りをしてほしいと経済産業省の方などにお目にかかって、話をしています。
新人の成長、技術研鑽の場が奪われる
――生成AIに新人の仕事が奪われ、新人の育成の場が奪われるという議論もあります。
緒方:私はそれを特に懸念しています。若い声優や俳優にとっては、モブなどの役や小規模のナレーションなども、経験値を高めるうえでとても重要な仕事です。経験を積んでいくことで、質の高い芝居ができるようになるわけですから。そういった仕事が生成AIで代替されてしまうと、新人がステップアップするための足掛かりをすべて奪われてしまいます。
アニメーターや漫画家、イラストレーターでも同じことが言えるのではないでしょうか。最初から画力があって上手い人もいると思いますが、小さなカットの仕事を経験して、伸びる人だっていますよね。そんな貴重な機会を生成AIに奪われてしまうと、職業自体の衰退につながりかねません。
既にインボイスが導入され、クリエイターの収入が減っている。卵時代の生活を支えるアルバイト代さえ。そんななかで、さらに生成AIによって技術を研鑽する場が奪われてしまっては、これから先、若手はどうやって学ぶのかという話になってしまう。
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