「いま、ちょっといい女と一緒にいるから遠慮してくれよ」 マイトガイ「小林旭」がファンのサイン攻めを断った「デート相手」とは

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「俺の偽物に振られて、寝込んでいるんだって?」

 小林とのエピソードを一言でいうと、「笑い」と、当時の言い方になるが「イカしてる」となるだろうか。

 元来、カルーセルはホスト嫌いだったが、クラブ「青江」のママから「小林旭そっくりのホストがいるから行ってみよう」と誘われ、新宿の「ニュー愛」に出かけた。ちょうどその頃、小林の「昔の名前で出ています」が大ヒットしていたこともあって、「ホスト小林」もモテモテだった。

 なんと、カルーセルはそんな偽物の小林に入れ込んでしまった。揚げ句、貯金を全部下ろして超のつく高級車、サンダーバードの新型モデルを買ってあげた。

 ところが突然、連絡が途絶え、ルンルン気分だったカルーセルはすっかり落ち込んでしまう。そこへ顔を包帯でグルグル巻きにした偽物が現れた。瞬時、カルーセルは「ヤクザにやられたのでは……」と思ったが、真相は他の女から「整形しろ」と言われたのが理由だったらしい。

 包帯をとった顔を見た途端に百年の恋も冷め、部屋から追い出した。カルーセルはその夜、ショックのあまり店を休んでしまったという。

 だが、世の中、何が起こるかわからない。なんと自宅に「小林です」と電話がかかってきた。カルーセルは、偽物がふざけているのかと思って「コノヤロー」と怒った。ところが、それは本物の小林で、

「俺の偽物に振られて、寝込んでいるんだって?」

 と笑っている。そして、「明日、札幌の雪祭りに行くから一緒に行こう」と誘われた。

 空港にはロールスロイスで迎えにきて、これ以上ないほどもてなしてくれた。小林は「マイトガイ」としての人気も健在で、歌もヒットしているから、行く先々で「サインして」「握手して」とファンにせがまれる。

 そんな時、小林はこう言って断ったという。

「悪いな。今、ちょっといい女と一緒にいるから、遠慮してくれよ」

 シビれるような名セリフ!

「重てーなぁ、あんまり飲みすぎんなよ」

 前回も紹介したが、裕次郎とのとっておきのエピソードも紹介したい。

「石原裕次郎・芸能生活20周年記念」パーティーがあった夜の出来事。最後は裕次郎と「屯㐂朋亭(ドンキホーテ)」という会員制スナックに2人で行くことになった。2人の他には店のマスターだけ。3人は翌日の昼まで飲み続けた。

 酒が強いカルーセルでもベロンベロンでさすがに眠くなった。そうすると裕次郎に「麻紀、寝るな、俺が歌っているだろう」と言っては起こされる。だが、さすがに途中で酔いつぶれてしまい、ぐっすり眠ってしまったという。そして目を覚ました時がお開きの時間。裕次郎はまだ眠そうにしているカルーセルを、真っ昼間にお姫様抱っこして自宅まで送り届けた。

 その頃、住んでいたのは東京・千駄ヶ谷のマンションだったのだが、階下は入口が別になっているラブホテルだったという。スナックのマスターが鍵を開けて部屋に運び入れたが、「もしラブホの入口で写真でも撮られていたら、どうなっていたか」と語った。

 そして、カルーセルをベッドに寝かしつけた裕次郎の言葉は、小林とは真逆の男っぽさそのもの。

「重てーなぁ、あんまり飲みすぎんなよ」

 昭和の2大スターにこんな風にかわいがられた女性はカルーセル麻紀以外にいない。

 ちなみに、連載でカルーセルは芸能人だけでも勝&中村珠緒、萬屋&淡路恵子、梅宮辰夫、藤山寛美、田宮二郎、松山千春、大地喜和子、黒柳徹子、松田聖子ら、錚々たるメンバーとの濃厚な交遊録を語ってくれた。

峯田淳/コラムニスト

デイリー新潮編集部

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