「撮り鉄」の狼藉に非難が高まるなか「かつてはプロの写真家もマナー違反をしていた」の声…SNSの普及で「承認欲求に火がついた」

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鉄道写真家だけの問題ではない

――そういったマナー違反は、鉄道写真家や撮り鉄特有のことなのか。

A:どんな写真家も同じことをしてきたと思う。富士山などの絶景を撮影している風景写真家も、木の枝を折ったり、伸びた草を刈ったりしているはずだ。もちろん、私有地への無断立ち入りもしているだろう。迷惑をかけないように配慮はしていると思うが、SNSで問題視される行為を「絶対にしていない」と自信をもって言える写真家は少ないのではないだろうか。

 撮り鉄も、若い世代は意外と礼儀正しくマナーを守る印象だ。むしろ、ベテランほど面倒だったりする。それは、我々プロが「こうやって撮ればいい」とレクチャーしたことをそのまま受け継いでいるからではないか。撮り鉄がプロと同じ構図で、同じ写真を撮ろうとすると、足元の草が邪魔になってしまうことはあったはずだ。結局、我々プロがやっていたことをアマチュアが真似しているだけなのではないか、と思っている。

――写真に限ったことではないが、昔は問題にならなかったことが、現代の基準では問題になるケースは多々ある。

A:写真が今ほど普及していなかった時代は、スナップ感覚で道行く人を撮影することは普通にあった。知り合いの写真家は、広告写真に使うためにハワイに行って、海辺できれいな水着姿の女性を見つけて無断撮影していた。旅行の広告か何かに使われたはずだ。今だったらこれは盗撮と言われるかもしれない。

――確かに、それだと、写真家が「マナーを守りましょう」と強く言うことはできないと思う。

A:過去の行為を謝罪したうえで啓発したとしても、自分だけが叩かれて損をしてしまうだろうし、仲間内からは「お前が言うな」と言われるのではないか。この問題には誰もが触れたくないだろうし、触れるメリットは何もない。だから、沈黙を貫いている人が多いのかもしれない。

 プロの写真家で、「自分は普段からマナーを守っている」と自信をもって言える人は、ごく少数ではないかと思う。少なくとも、自分は今の基準だと問題視される行動をとってきたと思うので、「マナーを守りましょう」とは言いにくい。他人に注意ができるような立場ではない。

撮り鉄が問題になった理由は

――撮り鉄が問題になりだしたのはなぜか。

A:本来、鉄道写真はニッチな分野だ。フィルムの時代は新幹線の“流し撮り”などのテクニックはアマチュアには結構難しく、技術を要するものだった。ところが、2000年代後半から、連写性能が向上し、高感度撮影も強くなるなど、デジタル一眼レフカメラの性能が一気に上がった。

 カメラの性能の向上で、誰でも少し練習すれば美しい写真が簡単に撮れるようになり、アマチュアが撮影を楽しむようになった。プロ顔負けの撮り鉄が2000年代には多く出現したと思う。写真を楽しむ人が多くなった文化的な意義はあると思うが、反面、マナー違反を犯す人が増えたし、目立つようになったのは事実ではないか。

――SNSの普及がそれに拍車をかけたのか。

A:SNSの影響は無視できないと思う。よりきれいに、より美しい写真をUPして、見てもらいたい。承認欲求の高まりから、立ち入り禁止区域に入ったり、他人に罵声を浴びせたりするなどの行為を働く人が増えたのではないか。仲間内で自慢したいという思いも強いのだろう。

 しかし、もはや誰もがきれいな写真を撮れるようになったため、定番アングルの写真では“いいね”がつかなくなったし、写真のコンテストではそういった写真は評価されない。いかに独創的な構図を狙うかがポイントになるが、そのためにはなおさら、人が開拓していない構図を求め、無断立ち入りをしなければならなくなる。

 SNSの時代、写真家はどうあるべきか。業界全体で議論は必要ではないか。少なくともいえるのは、鉄道写真家はお互いにマナーの順守の徹底を呼びかけるべきだろう。問題行動が続けば、鉄道会社から撮影の禁止を通達されてもおかしくない。

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