ATSUSHIのモノマネ芸人が見せた「露骨な欲望」にドン引き… 「そっくりさん芸」が世間から厳しい目を向けられる理由
9月9日、東京・文京区で営まれた歌手・橋幸夫さんの通夜に、ものまね芸人・RYOがEXILEのATSUSHIそっくりの姿で登場し、炎上した問題。ライターの冨士海ネコ氏が、「そっくりさん芸」が「モノマネ」と比べて炎上しやすい原因について分析する。
***
「みなさんのおかげでした」のワンコーナー、「2億4千万のものまねメドレー選手権」や「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」がとても好きだ。創意工夫にあふれ、時に意地悪な目線で、本家やそのファンから刺される覚悟を持って出てくる芸人魂のぶつかり合い。「似ていない」「よく分からない」と言われればそれまでというヒリヒリした緊張感から生み出される爆発力ある笑いの力には、いつも目を見張らされてきた。
しかし、EXILE・ATSUSHIさんのものまね芸人RYOさんに、その刺される覚悟はあったのだろうか。面識がある程度の関係性だという橋幸夫さんの葬儀に、ATSUSHIさんそっくりの出で立ちで参列し、いまも批判の声がやまない。「故人の追悼よりも、自分の承認欲求を優先したのではないか」と、業界内でも大きな波紋を呼んでいる。あの清水ミチコさんや有吉弘行さんまで苦言を呈しているのを見れば、明らかに「モノマネ芸」として許される一線を超えたと見なされているようだ。
一見すればこれは「個人の判断ミス」で済む話のように思える。だが、SNSとコスプレ文化が定着したいま、この出来事は「見た目だけ本物に似せて注目を集める行為」と芸能文化としての「モノマネ」との差異を象徴しているのではないだろうか。
かつてモノマネ芸人といえば、歌声や話しぶりをどこまで似せられるかが勝負だった。清水ミチコさんに限らず、古くは清水アキラさん、コロッケさんといったベテラン勢がテレビをにぎわせ、原口あきまささんやホリさん、神奈月さんらがバラエティー番組を盛り上げた。観客は「声を聞けば誰のモノマネか分かる」という精度に、時にオーバー過ぎるデフォルメぶりに、喝采を送ってきたものだ。
一方、外見だけをまねする「そっくりさん芸」は長らく「二流扱い」を受けてきた。似顔絵のように寄せた衣装とメイクで、似ているか似ていないかをジャッジされ、時に笑いを取る。だがそれは「芸」というより「おこぼれにあずかっているだけ」と切り捨てられることも多かった。
ところが、SNSとコスプレ文化が広がるにつれ、この図式は一変したのではないだろうか。見た目のインパクトは一瞬でバズを生み、画像一枚で世界に拡散できる。TikTokやInstagramで「激似そっくりさん」としてフォロワーを集めれば、それだけで立派なビジネスだ。もはや「声マネ」より「見た目マネ」のほうがアテンション・エコノミーに適している、と言っても過言ではない。かつてはダンスも交えたAKBの前田敦子さんのモノマネで人気をさらったキンタロー。さんも、最近では「ドッスン」など見た目一発のインパクト写真が話題になることが多い。
次ページ:SNS時代が生んだ「そっくりさん」たちの暴走 炎上を起こすのは「見た目重視の承認欲求」
[1/2ページ]


