デビュー16年目「有村架純」が映画界の大黒柱に 抜群の演技力とノンスキャンダル

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オカルト色を消す

 フミ子の存在はオカルト的でもあった。下手をすると気味の悪い物語になりかねなかった。だが、おそらく観客の大半はフミ子の物語を信じた。有村がうまかったからだ。フミ子を芯が強く、やさしい人間として演じた。実在する人間にしか見えなかった。

 有村によるフミ子役をつくり上げたのは演技力だけではない。有村個人の持つピュアでクリーンなイメージがプラスに働いた。有村にはスキャンダルの類がただの一度もない。もしも俗っぽい印象が強い俳優が演じていたら、興ざめになったはずだ。フミ子が神秘的な存在だからである。

「俳優の仕事とイメージは無関係」とする向きもあるが、それは実情と懸け離れている。観る側はどうしても俳優の存在にイメージを重ね合わせるから。1年半前まで有村の所属事務所の先輩だった広末涼子(45)が好例である。スキャンダルがあると、演技を素直に受け止めるのが難しくなる。

 やはり涙が抑えられなくなる有村の出演作は「ディア・ファミリー」(2024年)。主演は大泉洋(52)で、町工場社長・坪井宣政に扮した。坪井は心臓病で死期の迫る愛娘を救うため、自分で人工心臓をつくろうとする。実話に基づいた物語だった。

 有村は坪井の研究を追うテレビ記者・山本結子を演じた。坪井は山本を迷惑がる。興味本位の取材者ではないかと疑う。だが、それは違った。山本は坪井が開発した心臓補助機器に命を救われた。だから坪井の功績を世に伝えたかった。この作品も有村のクリーンさが役立った。無垢さがないと感動を生むのが難しい役柄だった。

 有村の主演作「前科者」(2022年)での役柄は、前歴者の更正を助ける保護司の阿川佳代。非常勤の国家公務員であるものの、報酬は一切ないため、コンビニで働いている。

 阿川は色眼鏡で見られがちな前科者たちに温かく接した。自宅に招き、手料理でもてなすこともあった。相手の言葉は信じ抜いた。助けを求められたら、コンビニを抜け出し、自転車で駆け付けた。

 阿川にはドジなところもあり、おまけに世間知らずだが、愚直でひたむき。石橋静河(31)が扮した元服役囚・斉藤みどりは、自分を世間の人と区別しない阿川との出会いにより、純粋だったころの自分を取り戻す。

 犯罪がいくつも描かれているため、ともすると暗い作風になってしまっただろうが、有村が阿川を陽性の女性として演じたため、物語全体に明るさを漂わせることが出来た。この作品でも有村本人のイメージが生きた。有村にピュアな印象があるため、阿川の前科者への無償の善意が信じられた。

 有村と同じ30代前半の俳優は清野菜名(30)、伊藤沙莉(31)、石橋静河、藤間爽子(31)、新木優子(31)ら。彼女たちが競い合うことにより、映画界のさらなる活性化が期待できそうだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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