妻に隠れて年下女性と「25年」 互いに家庭があっても…「点が線になるから続いた」と55歳夫が語るその真意

  • ブックマーク

紗織さんとの再会

 しかし第一子が産まれたその日、病院からいったん自宅に戻ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。振り返ると紗織さんが立っていた。

「お互いに『どうしたの?』と。紗織もその病院に来ていたらしい。一緒にバスに乗りながら、簡単に近況を報告しあったんです。うちが子どもが生まれたばかりと知って、彼女の顔が一瞬、曇ったのを覚えています。でもすぐに彼女は笑っておめでとうと言ってくれました」

 また今度と連絡先を交換しあった。それから彼も、妻の退院や日常生活、仕事に取り紛れていたが、娘の誕生から1ヶ月ほどたったとき、ふと紗織さんのことを思い出した。

「近いうち会おうよとメールをすると、『いつがいい?』とすぐ返事が来ました。僕たちは妻の実家近くで生活していたので、妻の両親に頼ることができた。いつでもいいよと返して、数日後に食事に行きました。そのときに彼女が不妊治療をしていると聞きました。ごめん、僕ばかり浮かれてしまってと言ったら、『子どもが生まれたら浮かれて当然よ』と。でも夫とはうまくいっていると聞いてホッとした。『不妊の原因は私なの。夫はふたりで生きていく選択肢も考えようと言ってくれている。でも私は申し訳なくて』と。もしかしたらあのときの流産経験が影響しているのかと考えたけど、それは言えなかった。紗織ももしかしたらそう思っていたかもしれません」

先輩のその後

 知っているかどうかわからないけどと、彼女は例の先輩の話を持ち出した。京輔さんにとっては、当時の自分のふがいなさを思い出す名前なので少し怯んだが、紗織さんはもうわだかまりをもっていないのだろう。彼の近況を知ったと言った。

「彼、独立して作った会社が傾いてしまって大変だったみたい。私のところに借金を申し込んできたのよと。驚きました。いくらなんでもそんなかっこ悪いことできますか? そうしなければならないほど困っていたんだとは思うけど。紗織は『貸してあげたいのは山々だけど、私はそこまでお人よしじゃないの』と言ったそうです。会社はその後倒産、彼は離婚して、実家に帰ったそうです。紗織はしみじみと、『正直言うと、あんなやつ不幸になれと思っていたの。でも実際にそうなってみるとちょっと気の毒で』って。人がいいなと僕も苦笑するしかありませんでした」

そして「25年不倫」は始まった

 それから数ヶ月に1度、会うようになった。彼女は結婚後、接客を本格的に学び、前のアルバイトから今の会社に引き抜かれたそうだ。そういえばあのころよりずっと雰囲気が垢抜けて洗練されていた。

「とても素敵な女性になっていました。でも僕らは、いわば秘密を共有する関係で、当時、紗織が言っていたように兄妹みたいなもの。ずっとそう思っていました。だからときどき会っても男女関係にはならないと思い込んでいたんです」

 ふたりはたまたま都心から見て同じ方角に住んでいた。ある駅で、それぞれ違う私鉄に乗り換えるのだが、珍しく少し酔った紗織さんと電車に乗っていると、突然、乗換駅でもないのに降りるという。

「気分が悪いのかなと思ったので僕もおりました。すると彼女は電車が行ってしまうのをぼんやり見送って、『私、あのころから京輔さんともっと親しくなりたかった』と言ったんです。親しいじゃないか、兄妹だろと冗談交じりに言うと、『私が好きなのはあなただったのよ』って。『でも悪くて言い出せないじゃない、そんなこと』とも。ずっと思いをためこんでいた、もうこれ以上、ためてはおけないと泣き出して」

 言われてみれば自分もそうだと気づいた。以前から気づいていたのだが、その気持ちに封印してきたことも改めて感じたという。男女の関係になったら、何かが始まってしまう。それは同時に、いつか終わることも意味している。だから関係をもちたくなかった。

「紗織にもそう言いました。それが僕の本音だと。そうしたら『終わってもいい。この気持ちをずっと抱えていくのはもう無理』と。じゃあ、1度だけ。これきりだからとふたりで約束した」

次ページ:現在の2人の家庭は

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。