先輩の恋人への仕打ちがひどすぎる 浮気しまくり、DV…挙句「お前にやるよ」と言われた僕と彼女の奇妙な関係

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お腹の子に起きた悲劇

 彼女もようやく「恋人に去られた」ことを実感したようだった。とはいえ、好きになった人を恨むこともできない。だが自分の人生はまだ50年以上あるんだよと京輔さんは諄々と言い聞かせた。

「やっと彼女も納得して病院へ行ったんですが、いざとなるとやっぱり産むって。ひとりでだって育てられるわと、診察室から逃げてしまったんです。あとを追いかけて、そんなに産みたければ産めばいい、オレと一緒に育てようと言いました。すると彼女はハッとしたように立ち尽くして……。『わかった、中絶する』と。でも手術の日が決まったところで、彼女、具合が悪くなって流産したんです。『望まれていないことがわかって、自分から流れていったんだ』と号泣していました。僕も一緒に泣きました」

始まった「兄妹のような暮らし」

 体調が回復するまでは一緒にいようと決めた。当時、京輔さんは拾ってきた猫を飼っていた。昼間、紗織さんは猫のめんどうを見る、その代わり京輔さんが生活費を出すという取り引きをしようと言ったら、彼女は目にいっぱい涙をためて「ありがとう。京輔さん、やさしいね」とつぶやいた。

 それから兄妹のような暮らしが始まった。3ヶ月ほどたつと紗織さんはアルバイトを再開した。猫の餌代は私が稼ぐと言って笑ったという。立ち直ってきた証拠だと京輔さんは胸をなで下ろした。

「半年ほどで、彼女はひとりで暮らすと言って出ていきました。アルバイト先の社員が、アパートも見つけてくれたという。僕たちは結局、ひとつ部屋に住みながら男女の関係にはならなかった。先輩の彼女で、しかもあんなに傷ついた女性とどうこうはなれない。彼女も僕とはそういう関係になりたくなかったでしょうし」

ようやくひと段落した紗織さんの環境

 それから1年ほどたったころ、久しぶりに紗織さんから連絡があった。「結婚するの。京輔さんには彼を紹介したい」と明るい声が響いた。

「ちょっとがっかりしましたが、彼女のためにはよかったなと思って。相手の男性は彼女より5歳くらい上じゃなかったかな。感じのいい人でした。僕は郷里の先輩として紹介されたけど、高校生時代の彼女を知っているわけでもないし、『東京に来てから、同じ郷里の人たちと何度か会っただけ』と説明しました。でも紗織は『京輔さんは、私の兄貴みたいなものかな。ふだんは会わないけど相談すると親身になってくれるから』と。相手の男性は、そんな紗織を愛おしそうな目で見ていました。この人なら大丈夫だと感じたのを覚えています」

 数年にわたる先輩と彼女との間での葛藤から解き放たれたとき、彼は29歳になっていた。

 ***

 悲劇から不思議な関係が始まり、そして紗織さんの心身も結婚によって回復したように見える。それがなぜ、25年にも及ぶ不倫関係に発展していったのか――。【記事後編】では現在に至るまでのてん末を紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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