「半導体覇権」は新たな戦局へ 日本の技術的成功はトランプ政権下で通用するのか…変革期の業界を読む

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 米トランプ大統領の再登場により、世界の半導体業界は再び激動の時代を迎えようとしている。バイデン政権下で進められてきた「対中包囲網」の戦略は根本から見直しを迫られ、日本の半導体復活プロジェクトも重大な岐路に立たされている。半導体業界の変化を長年見つめ続けてきた早稲田大学商学学術院経営管理研究科教授の長内厚氏が、現在の動向と日本の立ち位置を解説する――。

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アメリカファーストが変える半導体の勢力図

 半導体業界の今後を占う上で最も大きなポイントは、第二次トランプ政権下で見られるアメリカの立ち位置の変化です。

 バイデン政権下でのアメリカの半導体政策は、日本・韓国・台湾を巻き込んだ「チップ4」という枠組みにより、中国を囲い込むというものでした。

 しかし、トランプ政権になると様相は一変します。「アメリカ以外の国は全てライバルだ」という姿勢は半導体政策も例外ではなく、実際に半導体に関しても200%や300%の関税をかけるかもしれないという話が出ています。関税が発動した際には、これまで“味方”だった日本や韓国、台湾も対象となる可能性が高いです。

 元々、半導体の世界は技術的な変化が激しく「何が起きるか分からない」業界で、中長期的な予測をもとに戦略を実行していくのが難しい産業でしたが、トランプ政権という変数が加わったことで、その見通しはますます不透明さが増していると言えるでしょう。

インテルの挑戦と限界

 トランプ政権の「アメリカファースト」を象徴する動きの1つが、「インテル」を巡る政策です。アメリカ政府がインテル株を10%取得するという直接投資の方針が示され、ソフトバンクもそれに同調する形でインテルへの約3000億円の投資を発表しています。

 AI事業に欠かせない最先端半導体の国内生産を後押しするものですが、本当に2ナノレベルの最先端半導体をアメリカで量産できるのか、その実現可能性については疑問が残ります。

 現状、回路線幅が2ナノメートル(20億分の1メートル)の最先端半導体を製造できるのは台湾のTSMCと韓国のサムスン電子だけで、そこにいま日本のラピダスが加わることを目指しています。今年7月、ラピダスが2ナノの最先端半導体の基幹部品であるトランジスターの試作に成功したと報じられましたが、実際に量産まで漕ぎ着くにはまだ時間がかかります。

 それはインテルも同じことで、アメリカが最先端半導体をすぐに作れるかといえば、恐らく作れません。そのための投資期間を考えると、トランプ政権の任期の方が短い可能性が高いでしょう。

 さらに、インテルにはTSMCとは違う構造的な弱点もあります。TSMCは自社では半導体の開発を行わず、請け負った半導体の製造のみに特化した、完全純粋な「ファウンドリー」です。つまり、半導体の開発競争とは距離を保てています。しかしインテルの場合、インテル自身が半導体の開発メーカーなので、インテルのライバル会社は決してインテルに半導体の製造を発注することはありません。AMDやNVIDIAといったライバル企業が、インテルに製造を委託することは考えにくいのです。

 結果として、インテルの半導体工場は生産量が自社製品に依存し、半導体製造で利益を得るために重要な「大量生産によるコストメリット」を得ることが難しいと考えられるのです。

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