「半導体覇権」は新たな戦局へ 日本の技術的成功はトランプ政権下で通用するのか…変革期の業界を読む
3次元への進化が鍵を握る
一方で、半導体の技術開発は新たな段階に入ろうとしています。現在の平面での微細化競争に限界が見えてきた今、次の焦点は3次元化です。10ナノ、5ナノ、3ナノ、2ナノと半導体の微細化はどんどん進んでいますが、2次元の開発競争にはいつか限界がきます。すると競争の舞台は3次元に移るわけです。
3次元、つまり「積み重ねる」という後工程の技術が重要になっていて、これもTSMCやサムスン、あるいはラピダスがいま開発に力を入れている領域です。
データ保存に用いる「半導体メモリー」ではすでにこの積層技術が実用化されており、カメラに使われるソニーのCMOSイメージセンサーも、裏面に制御用チップを貼り合わせる技術が使われています。
ラピダスの前途はまだまだ多難ですが、「最新参」であることのメリットもあります。それは現在の最新の技術水準を元に、製造ラインの仕組みを構築できることです。既存の設備の制約を受けることなく、最先端半導体の製造に最適化された工場を一から構築できることは、後発である利点と言えるでしょう。
ラピダスの成果と課題
「日本半導体の復活の象徴」とも期待されるラピダスが、2ナノメートルのトランジスター試作に成功したことは、素直にすごいことだと思います。2ナノの最先端半導体を作ることができる、と証明できたことは非常に大きなことです。
しかし、技術的成功と事業的成功は別の話です。ラピダスには優秀な技術人材は揃っているのでしょうが、問題は経営人材がいないことです。ラピダスを巡る報道をウォッチしていると、「優秀なエンジニアを集めた」という話はよく耳にしますが、マーケティングや営業分野で優秀な人材を確保したという話はあまり聞きません。
実際、ラピダスの企画担当者と話した際に「戦略に関してはコンサルを入れてしっかり考えています」という会話がありました。果たして事業的な成功をコンサル任せで手にすることはできるのでしょうか。そうした言葉が出てきてしまうところに、ラピダスの「文系人材の弱さ」を感じざるを得ません。
顧客ありきで成功するJASM
対照的に事業的な成功を収めつつあるのが、TSMCやソニーが出資し、熊本に設立されたJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)です。
ラピダスは、まず2ナノという最先端技術の開発を実現し、そこを起点にブレイクダウンしてビジネスプランにしていこうという試みですが、JASMはその逆です。
日本が世界に誇る自動車産業で、今、最も必要とされているのは、実は最先端半導体ではなく、28ナノメートルの半導体なのです。さらにソニーという有力な顧客も存在します。現在、JASMが作ってる半導体の約8割はソニー向けです。
ソニーがTSMCを誘致し、JASMに出資をした背景には、数年前の半導体不足の経験があります。ソニーはCMOSイメージセンサーの基幹部品である「センサーチップ」は自前で作ることができるものの、それを制御する「ロジックチップ」はTSMCから調達していました。
世界的な半導体不足を目の当たりにしたソニーは、「センサーチップは作れてもロジックチップが手に入らなければ製品を作ることができない」という危機感から、TSMCの誘致を考えた。ちなみに、ライバルであるサムスンは両方のチップを内製しているため「敵の敵」としてソニーとTSMCには共通の利益を見いだすことができたのです。
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