「日本で力士になりたい」 ウクライナ出身の21歳「安青錦」、初土俵から2年足らずで幕内優勝争いに絡んだ若き才能【令和の名力士たち】

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 東西横綱が揃い、若手力士の躍進もめざましい大相撲。令和の相撲人気は高止まりを続けているが、いつの世も真に人を魅了するのは、力士たちの磨かれた技と個性だ。ノンフィクションライターの武田葉月氏が、注目すべき現役力士たちを紹介するシリーズ「令和の名力士たち」。第4回は名古屋場所で優勝戦線を引っ張った21歳、ウクライナ出身の安青錦が登場する。

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夏巡業の疲れを感じさせない笑顔

 猛暑日が続いた8月、大相撲の力士たちは1カ月にわたる夏巡業のため、全国各地を回っていた。

 3日の大阪・関西万博場所から始まり、一行は東北、北海道の地へ。さらに、新潟、石川などを経て、茨城、千葉、埼玉などの関東近郊をも隈なく巡る。

 巡業中は、朝8時過ぎから関取衆の稽古が始まる。長期巡業ということもあり、休みがちの力士もいる中で、安青錦は早い時間から土俵周りで四股、すり足、ストレッチなどの基礎運動でウォーミングアップ。

 その後は、関取衆との申し合い、ぶつかり稽古と続いて、ひとまず稽古は終了。空調が効いていない会場もあるため、各力士は大粒の汗を流して疲労困憊の表情を見せているが、安青錦は終始クールだ。

「(巡業の)疲れ? それほど感じていません。北海道で食べたジンギスカン、最高においしかったです!」

 と、チャーミングな笑顔を見せた。

名古屋場所で琴勝峰と「直接対決」

「ウクライナ出身・安青錦」の名を一躍有名にしたのは、7月の名古屋場所での活躍だ。

 前頭筆頭で臨んだ前半戦こそ、横綱・大の里、元大関・高安に黒星を喫したものの、7日目からなんと7連勝。12日目にはベテラン・玉鷲を上手投げで下したことで、2敗は安青錦と琴勝峰の2人になった。

 優勝戦線を引っ張る形になった安青錦は、13日目も一山本に快勝。ところが、14日目に新入幕・草野に敗れて、3敗目を喫してしまう。

 千秋楽は、2敗の琴勝峰と3敗の安青錦の「直接対決」が組まれた。琴勝峰が勝てば、すんなり優勝。敗れて3敗となり、草野が3敗を守れば、安青錦も含めて3人での優勝決定戦になる。

 この大切な一番で、安青錦は力を出すことができず、突き落としで敗戦。

「いつもの立ち合いができなかった。上がらないというとウソになるし、緊張もあったと思います」

 と、正直な心情を吐露した安青錦。それでも、春場所の新入幕以来、3場所連続11勝。準優勝という活躍は、安青錦の潜在能力の高さを示すに十分だった。

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