昭和・平成の名時代劇を手がけた殺陣師「菅原俊夫」さん 人生を変えた「美空ひばり」の一言

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時代劇は日本の文化

 脚本には立ち回りの内容は書かれていない。「激闘が続く」などと書かれた脚本を読み込み、場面を作り上げるのが殺陣師の仕事だ。

「戦うのが武士なのか、ヤクザなのか。一騎打ちなのか、多勢に無勢なのか。『てめえ!』の一言でもどんな気持ちで言うのか、強いやつが余裕を持っていうのか、弱いやつが虚勢を張って言うのか、すべてわかってないと動きはつけられないです。そのため脚本を読み込んで、毎回、『俺にしかわからない台本』を作ります。現場で殺陣師が迷っているように見えるのは一番よくない。俳優を不安にさせるし、撮影の流れも悪くなりますからね。だから、間違ってもいいから自信を持ってやる。コツは口八丁やね(笑)」

 映画全盛期からテレビ時代劇の興隆を目の当たりにしてきただけに、仕事を愛する気持ちとクールに現状を見つめる目を合わせ持つ人でもあった。

「時代劇は日本の文化として守っていくべきだと思うし、常に新しい発見がある面白い仕事だと思います。でも、失敗したって次の作品がある時代じゃない。次世代にどう引き継ぐかは難しい時代ですね」

 難しい時代に奮闘している後輩たちのこと、現在、大改装されている撮影所の未来を思いながらの旅立ちだったか。ごつごつした手から生み出された斬新なシーンの数々に感謝したい。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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