NHKの終戦80年ドラマで「祖父の人格をゆがめられた」 孫が怒りの告発 「温厚だった祖父がまるで悪役かのように描かれ…」
各局が終戦80年を契機にした番組をこぞって放送する中「みなさまのNHK」肝いりのドラマに疑義が呈されている。作中に登場するキャラクターの人格が、モデルとなった実在の人物と全く違うというのだ。遺族の怒りの声に、局上層部が取った対応とは。
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【写真を見る】「温厚な祖父だったのに…」 ”悪役”として描かれてしまった、飯村穣氏
「エンターテインメントのためとはいえ、あまりに無責任。歴史に対する敬意が欠如しています」
納得しかねる様子でそう語るのは、元駐フランス大使の飯村豊氏(78)だ。外交官として数々の要職を経てきた同氏がかくも怒りをあらわにするのは、自身の祖父の名誉が脅かされているからに他ならない。
飯村氏が批判しているのは「NHKスペシャル」の終戦80年企画として8月16、17日に放送されたドラマ「シミュレーション」の内容である。局関係者が言う。
「ドラマは猪瀬直樹氏の著書『昭和16年夏の敗戦』を原案に、第2次世界大戦の直前〈総力戦研究所〉に集った若きエリートたちの葛藤を描くという内容でした。〈総力戦研究所〉とは、対米戦をシミュレートするため首相直属でつくられた実在の組織です。主演の池松壮亮をはじめ、二階堂ふみ、佐藤浩市など豪華キャストをそろえ“究極の人間ドラマ”と銘打っていました」
「祖父はむしろ部下を大切にする温厚な性格で……」
7月中旬にこのドラマの放送を知った飯村氏は、その内容に強い違和感を抱いたという。
「私の祖父、飯村穣(じょう)・陸軍中将が、この〈総力戦研究所〉で実際に所長を務めた人物だからです。つまり作中で國村隼さん演じる所長の“板倉大道(だいどう)・陸軍中将”役のモデルということになる。それなのに資料を多数保管している孫の私にドラマ班が取材に来ないのは意外でした」(飯村氏)
何より飯村氏が驚いたのは、告知における祖父の人物像だ。
「番組紹介では〈軍上層部の思惑とは異なる研究結果が出始めると、自由な議論の“最大の壁”となっていく〉とされていました。しかし残された資料によると、祖父はむしろ部下を大切にする温厚な性格で、自由な議論を奨励したと証言されています。軍・官・民が一丸となり危機に立ち向かうため研究する場だったという史実が蔑ろにされ、良心的なエリートvs.高圧的な軍人という分かりやすい構図でドラマを作っているのではと危惧しました」(同)
飯村氏はNHKに連絡を取り、7月23日から数回にわたり、制作を担った局員ら3名と話し合いの場を設けた。もし史実と違う内容なら変更してほしいと要求したが「セットも壊したので、それは難しい」と拒否され、脚本を確認することもかなわなかった。
「NHKがのんだ対応は、ドラマが史実だと誤解されかねない告知内容を削除すること、番組冒頭にフィクションだと明記したテロップを入れること、ドラマ後にあるドキュメンタリーパートで史実を取り上げることという3点のみでした。彼らは“どんな根拠で祖父をこういう人物像にしたのか”と問うても答えられず、不安が残りました」(同)
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