なぜ人は都合が悪くなると「SNSのせい」にするのか? 『ウェブはバカと暇人のもの』著者が考える「便所の落書き」ではなくなったネット言論との向き合い方

国内 社会

  • ブックマーク

 今年の夏の甲子園に出場した、広陵高校で起きた暴行事件についてのSNS告発は、大きな波紋を呼んだ。騒動の中、1回戦を突破した同校はしかし、2回戦を辞退すると決断。その際、会見を開き、辞退の理由について、「SNSで虚偽情報や誹謗中傷があり辞退せざるを得なくなった」という趣旨の説明を行った。

 また、自民党による参院選の敗北を総括する文書においても、「外国製botによる虚偽情報拡散、各種SNSでの切り抜き、デマの蔓延」などをその理由にした。

 上記二つの件について、確かにSNSの影響が全くなかったとは言わない。とはいえ、何でもかんでも「SNSのせい」にし過ぎではないだろうか? こうした動きの背景には、テレビ・新聞社・出版社といういわゆる「オールドメディア」や、都合の悪い言論を封殺したい政府・政党・権威・企業を含めた組織がSNS規制を強めようとしている流れと連動しているように見えて仕方ない。【中川淳一郎/ネットニュース編集者】

ネットを悪く言ってください

 私自身、ネット業界には24年間ほど身を置き、その発展を見続けてきた。一方で、オールドメディアからのアプローチも多数あった。それは私がオールドメディア側である博報堂の出身で、かつ、様々な紙の雑誌の仕事をし続けてきたという経緯が大きい。そのうえで、さらに拙著『ウェブはバカと暇人のもの』を含め、書籍でインターネット言論のしょうもなさを書き続けたため、勝手にオールドメディアの人々が私を味方だと思ったのである。

 オールドメディアの人々は、ネット規制をする動きに賛同しているだろう。何しろ、この24年間、ひたすら「我が社の収益減はネットのせい」と言い続けてきたのだから。そのうえで、「我々は裏取りをし、専門家の意見を聞き、校閲部門を含めダブル・トリプルチェックをしていて信頼性がある。ネットの便所の書き込みとは違うのです!」を言い続けてきた。

 私自身が2010年代前半にオールドメディアから重宝されたのは、広告会社出身かつ雑誌編集者であるのに、ネットに対してネガティブなことを書く人間だったからである。いや、違う。私はネットの可能性は評価しつつも、ネット業界の人々が「インターネットがあれば、『知識』が弁証法のように昇華する『ウェブ2.0』の世界がやってきて人類が進化する」的なユートピア思想を抱いたことに疑念を抱いただけである。

 ネットがあろうがなかろうが、バカはバカだし、人間の本質は変わらない。ただし、その流れに乗れて成功する少数派は誕生する――これが主張だったのだが、オールドメディアの人々は私を単なるアンチネットの論客だと認定した。そこから先は様々なオールドメディアの人間から「ネットを悪く言ってください」と要求された。

 一番覚えているのは、毎日新聞の記者からの取材である。ネット世論のあり様について取材依頼をしてきたのだが、途中から怪しい空気を感じた。こんな質問をしてくるのだ。

「やっぱネットの情報は、真偽不明の情報を繋ぎ合わせて陰謀論を作っていくのですよね?」

「やっぱ中川さんは、出版業界にいたから、出版社の方がクオリティの高い記事を出せると思ってますよね?」

「やっぱ、素人が好き放題書くネットは、新聞や雑誌、テレビより信頼性がないですよね?」

 この「やっぱ」から始まる質問にはいい加減辟易してきた。この記者は質問をする体で「はい」と言わせたいだけなのだ。「はい」と言ったら私の発言として「ネットの情報は、真偽不明の情報を繋ぎ合わせて陰謀論を作っていくのです」の言質を取ったことになる。「それは社会にとって良いことではないですよね」という質問に「まぁ、あまり良くないですよね。ただ、真偽を自ら把握するだけの審美眼は必要です」と答えたら、さらに悪化する。

次ページ:規制を強めなければならない

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。