昨季の“失策王”が今季はGG賞候補に…「佐藤輝明」覚醒の秘訣は「守備強化」 飛躍の裏に「藤川監督」と「下柳グラブ叩きつけ事件」のコーチが

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口うるさいOBを無視

 今季の優勝は、岡田前監督の遺産――という評論もある。確かに、近本、中野、森下、佐藤、大山といった打撃陣や、才木、村上、石井、及川ら鉄壁の投手陣は、みな岡田時代やそれ以前に頭角を現した選手である。しかし、それを生かしつつ、前例に捕らわれない、柔軟なマネージメント術で勝利に導いた藤川監督の手腕ももっと評価されるべきかもしれない。

 佐藤の起用法にしても、開幕前、藤川監督は「3番佐藤、4番森下」という打順を宣言。しかし14試合目からはあっさり前言撤回し、この2人を入れ替えて、4番に佐藤を固定、チーム浮上のカンフル剤にした。また、藤川監督はどの選手も必ずバテる「真夏の連戦」ではあえて佐藤を怪我でもないのに、休養のためとしてスタメンから外した。これには掛布OB会長がテレビ解説で「先発でなかったら、どこかで使わなきゃダメ」と言えば、岡田前監督も「主力は試合に出るのが義務。お客さんに失礼や」とダメ出しした。藤川監督はこの口うるさいOBたちの声をあえて無視。優勝インタビューで「お世話になった先輩方から距離を置いていました。グラウンドで戦うためです。お許し願いたい」とコメントしていた。この判断は正しかったようで、当の佐藤も、「強制休養」のおかげでメリハリがついた練習ができるようになったと語っていた。

 また、藤川監督は佐藤に対して5月25日の中日戦から、プロ入り初となる左翼を守らせている。また、そこから約一カ月は右翼を任せている。近本、森下以外のひと枠に有力選手が欠けていた外野をカバーするためだが、岡田時代の2年間、佐藤は3塁固定。このコンバートもこれまでの「阪神の4番像」からすれば考えられない起用法だ。が、佐藤は元々捕手で、高校時代は外野もやっていた。その守備センスと肩の強さで、外野からチームのピンチを何度も救う場面があった。そして外野での失策もまたゼロ。佐藤のポテンシャルを生かしてチームの危機を救う一方で、佐藤自身の可能性も広げる。振り返ってみれば、これもまた見事な采配だったと言える。

メジャー行きの価値

 こうして守備、打撃両面の向上に成功した佐藤。あまり注目されてはいないが、昨季ゼロだった盗塁も、今季は二桁の10個を超えた。

 昨オフには将来のメジャー行き希望も表明した佐藤にとって、走・攻・守のレベルアップは明らかに自らの“価値”を高めたであろう。そしてその覚醒は、監督はじめチームが一体となったプロジェクトによる、必然の帰結だったのである。

小田義天(おだ・ぎてん)
スポーツライター

デイリー新潮編集部

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