「うまい演技」とは? プロも驚いた「上白石萌音」の表情 名匠に応えた「唐田えりか」の棒読み

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プロが認める名優

 うまい演技の基準が曖昧になっているようだ。プロの制作者や研究者はどんな演技をうまいと評するのか。また、誰がうまい俳優だと見ているのか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 故・萩原健一さんの主演作「課長サンの厄年」(1993年)など数々のドラマを手掛けた元TBSのフリープロデューサー・市川哲夫氏は、うまい俳優の1人として故・丹波哲郎さんの名前を挙げた。

 丹波さんが主人公のベテラン刑事に扮した映画「砂の器」(1974年)とやはり主人公の大物宗教家を演じた同「人間革命」(1973年)に目を見張ったという。

 映画「極道の妻たちシリーズ」(1991年)などで知られる映画監督の故・中島貞夫氏も生前の取材に「文句なしにうまいのは丹波さんと田中邦衛さん」と話していた。

 まず、丹波さんと田中さんが演じると、役柄の人物にしか見えなくなるからだ。うまい俳優と呼ばれるための最低限の条件である。その上、丹波さんと田中さんには強い個性と存在感があった。

 どうすればその域に達するのか。市川氏は「演技を磨く場所は、劇団の養成所や歌舞伎の世界での修業などさまざまな形がありますが、やはり天性の部分が大きい」と語る。

 市川氏は鬼籍に入った名優として滝沢修氏、志村喬氏、笠智衆氏、森雅之氏、高峰秀子氏の名前を挙げた。いずれも語り継がれている存在だ。

 現役組については京都情報大学院大学教授の阿部嘉昭氏に話を聞いた。阿部氏は映画制作者を経て北海道大学大大学院教授に就任。『映画監督大島渚」など映画に関するものを中心に著書が30冊以上あり、評論家としても名高い。

上白石萌音のうまさ

 まず、うまい俳優として上白石萌音(27)の名前を挙げた。

「映画『35年目のラブレター』(3月公開)を観て、あらためてそう思いました」(阿部氏)

 主演は笑福亭鶴瓶(73)。貧しい境遇のために字をおぼえられなかった男を演じた。字が書けないことを知らずに結婚した妻に扮したのが原田知世(57)。2人の若き日を演じたのが重岡大毅(33)、上白石である。

「重岡さんが回覧板に記入しなくてはならないシーンがあるのですが、字が書けないので動揺する。その手先を上白石さんはじっと見ていた。ここで普通の演技プランなら、驚きや衝撃の感情が表情に出ますが、上白石さんは違いました」(同)

 表情をほとんど変えなかったのである。

「それでいて、ほんの僅かな顔の変化によって、重岡さんが字の書けない人であることを既に気づいていたこと、彼がとても悲しい人であると思っていることを表しました。見事な演技で、驚かされました。ありきたりの演技設計をしない人です」(同)

 松村北斗(30)とダブル主演した映画「夜明けのすべて」(2024年)での上白石の演技も阿部氏は讃える。PMS(月経前症候群)のため、月に1度苛立ちを見せるOL役だった。

「小さな幅の演技で、豊かな表現が出来てしまう人。ドラマでの演技もいい」(同)

 元プロ棋士予備軍の新人弁護士役で主演したテレビ東京「法廷のドラゴン」(1月放送)は、同局史上で屈指の話題作となった。演技中の上白石はもちろん役柄の人物にしか見えない。その上、心の内側を表情や仕草で伝える。

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