「うまい演技」とは? プロも驚いた「上白石萌音」の表情 名匠に応えた「唐田えりか」の棒読み
棒読みは大根か
NHK「地震のあとで」(4月)の第1回「UFOが釧路に降りる」で、謎めくヒロインのシマオを演じた唐田えりか(27)も阿部氏はうまいと評価する。
「映画『寝ても覚めても』(2018年)のとき、セリフが棒読みだったなどと言われましたが、あれは濱口竜介監督の考えた演技プラン。唐田さんが無表情の難しい演技の出来る俳優であることを念頭に置いてつくられた役柄です」(同)
濱口監督は「ドライブ・マイ・カー」(2021年)のセリフも棒読みだった。
「セリフの棒読みはジャン・ルノアール監督らフランスの監督がよく使います。セリフを棒読みにすると、言葉に奥行きが出る」(同)
セリフが棒読みだと、それだけで演技を否定されがちだが、プロはそう思わない。棒読みだからこそ得られる味わいや説得力がある。
阿部氏によると、夏ドラマでもうまい演技が多く見られた。まずテレビ朝日「大追跡 警視庁SSBC強行犯係」(水曜午後9時)の遠藤憲一(64)と松下奈緒(40)である。遠藤は権力に弱い捜査1課長を演じ、松下は融通の利かない刑事に扮した。
「2人のやり取りは愉快なものになりました。それはリズムが良かったから。リズムは演技の評価対象から外れがちですが、実は重要なこと」(同)
リズムは呼吸、間、反射神経などから生まれる。これが悪いと、笑いを取るのが難しい。
阿部氏はフジテレビ「愛の、がっこう。」(木曜午後10時)の木村文乃(37)もうまいと評する。
「木村さんには読み書きの苦手なホスト(ラウール)への愛情がありましたが、それを本人は教師として彼を教育しなくてはならないという義務感からのものに過ぎないと思っていた。だから自分が彼を好きであるという現実をなかなか自覚できなかった。一方で視聴者側はもちろん気づいている。この形を終始守り、視聴者の応援を得た。この演技設計は大したものでした」(同)
うまい俳優は例外なく作品に合う演技設計が出来る。どんな役柄を演じても同じということにはならない。
阿部氏はフジテレビ「僕達はまだその星の校則を知らない」(月曜午後10時)に主演する磯村勇斗(32)もうまいと評価する。
「磯村さんの演じる役柄は、作品ごとに演技設計がかなり違う。それを難なく演じているのだから、かなり器用な俳優であるはずですが、器用に見せない」(同)
器用に見られてしまうと、小手先で演じていると思われる恐れがある。磯村の場合はそうなっていない。
磯村はTBS「不適切にもほどがある!」(2024年)では不良少年とその子供の現代的サラリーマンの2役を演じた。同「クジャクのダンス、誰が見た?」(冬ドラマ)では胡散臭い週刊誌記者に扮した。「僕達はまだその星の校則を知らない」では、対人能力に欠けるスクールロイヤー役だった。確かにバラバラ。本当は器用なのだろう。
「今回は磯村さんの相手役に堀田真由さんが配されましたのが、これも良かった。堀田さんのキャラクターを、往年の青春ドラマに出てきそうな懐かしい感じの教師にした。2人の関係はモジモジしたもので、お互いの手が触れたくらいでドキドキしてしまう。ドラマに通底する宮沢賢治の世界観とも合致します」(同)
このドラマの下地には賢治の世界観がある。物質的な豊かさや効率より、自然との調和や宇宙的視点を優先するというもの。磯村と堀田の純な関係にも賢治の空気が流れる。
「高校の教室の空間から天文部の部室まで、賢治を感じさせる。脚本の大森美香氏は賢治のことをかなり深いレベルで好きなのでしょう」(同)
フジ「最後の鑑定人」(水曜午後10時)の白石麻衣(33)にも俳優としての魅力を感じるという。役柄は藤木直人の鑑定所で働く研究員だ。
「鑑定人役の藤木さんが極めつけの変人なので、白石さんは自分の存在を藤木さんとは対象的なところに置いているのですが、その位置取りが絶妙。勘がいい人なのでしょう。また相手を見つめることでその人のウソを見抜けるという設定なのですが、相手を見るときの眼差しが抜群にいい」(同)
紙幅の都合で名前を挙げられなかったが、ほかにもうまい俳優は多い。年齢を重ねるに連れ、演技力が伸びている人もいるという。
「俳優の演技に完成はない。それが俳優という仕事の業なのです」(前出・市川氏)
[2/2ページ]

