国の適当すぎる対応が招いた都内マンション「ホテル化」問題 「法の穴」を生んだ2つのイレギュラーとは
2つの業界の主張は平行線のまま…
ところが、不動産業界は365日間を通じての営業許可を求めた。事業として考えた場合、宿泊の回転数が収益に直結することから、双方の利害が一致しないのは、必然だったと言える。
「結局、両者とも譲らず議論は平行線になりました。それで最終的には国が、両者の間をとって年間180日としよう、と決めてしまった。ものすごくアバウトというか、日本人的な決め方ですよね(苦笑)」(A氏)
しかもその「年間180日間」のカウントは自己申告制。「あまりにもザルすぎる」との反発の声があったことから、施行の3年後には制度を再点検し、見直すべき箇所は見直しましょうという、付帯決議がなされた。こうして2018年6月15日に施行されたのが、住宅宿泊事業法、いわゆる「民泊新法」だった。
「いま問題になっているのは、この民泊新法の整備と合わせて進められた旅館業法の規制緩和です。それまで、ホテル営業は最低1部屋9平米以上の部屋が10室以上、旅館営業の場合は最低7平米以上の部屋が5部屋以上ないといけないという縛りがありました。しかし、それでは民泊新法との整合性を考えた際に厳しすぎるだろう、と。そこで改正後の旅館業法ではそれまでホテル営業と旅館営業と分かれていたものを一本化し、部屋数と平米数の最低条件が撤廃されました。結果的にはこれが“いきすぎた規制緩和”だったということです」(同)
コロナで激変した民泊事情
災いしたのは、民泊新法と改正旅館業法の見直しが議論されるはずだった、3年後の2021年がコロナ禍の真っただ中だったことだ。2020年に開催予定だった東京オリンピックが、無観客で2021年に開催された、ちょうどあの頃である。
「当時は小池都知事が“三密はダメ”とか“東京に来ないでください”と言っていた時代。もちろん外国人観光客は0だった。民泊新法の見直しも何も、そもそも民泊をやる業者がみんな撤退していた時期だったので、住宅宿泊事業法は見直しの意見聴取が行われることもなく、今日までそのままズルズルと運営されています。一緒に改正された改正旅館業法も同様です」(A氏)
時は変わって2025年。当時のコロナ禍がウソだったかのうように日本では“オーバーツーリズム”の問題が叫ばれるようになり、都内ホテルの宿泊料金は高騰。
「そこで注目されるようになったのが、部屋数や平米数の縛りがなくなった旅館業法です。わざわざ年間180日間の上限のある民泊でやらなくても、1室ごとにホテル営業の許可を取ってしまえばいい、という“法律の穴”をついたスキームが大流行しているのが今現在の状況です」(同)
ただ、住宅宿泊事業法の場合は、部屋を用意し「民泊をやります」という届け出を出せばいいだけなのに対し、ホテル営業は国の旅館業法に基づく許可が必要となるが、そんなに簡単に許可が下りるものなのだろうか。
「もちろん、保健所に営業許可の申請書を出し、平面図や立面図に加え設備図や配管図など、用意の必要な書類は少なくありません。ただ、旅館業法上、特に問題がなければワンルーム1部屋のみの施設であろうが、ホテル営業の許可は簡単に取れてしまいます」(同)
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