まさかの人事に識者も「冗談かと思いました」…「コメは買ったことがない」江藤拓・前農水相が自民“農業新組織”トップに就任で「自民の岩盤支持層が離反しかねない」

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 江藤拓・前農林水産大臣(65)は8月27日、自民党の新組織「農業構造転換推進委員会」の委員長に就任した。江藤氏は党農林部会などの合同会議で挨拶し、「農業団体や農水省と、どれだけ連携を取れるかが私の役目だ」と意欲を見せた。農業団体=JAと解釈すれば守旧派のスタンスだと考えられ、農政改革に意欲的な石破茂首相(68)や小泉進次郎農水相(44)に牽制球を投げたと読み解く専門家もいる。

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 SNSなどネット上の反応を見てみると、確かに“江藤対小泉”の図式に注目した意見もないわけではない。だが投稿の圧倒的多数は、この人事への反発だ。

 何しろ江藤氏といえば、今年5月に佐賀市で開かれた政治資金パーティーで「コメは買ったことがありません」、「売るほどある、家の食品庫には」とスピーチ。コメ高騰に苦しむ国民の怒りを買ったことは記憶に新しい。

 Xでは《自民党の自浄能力の無さを露呈》、《農家の苦しみもわからないやつがトップで自民も腐ってる》、《米を買ったことがない人が重要な「米政策」を決定することになったんだね》──という具合だ。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏は「最初に聞いた時、冗談かと思いました」と言う。

「最近の自民党は世論と全く乖離してしまっています。ここまで世論に鈍感になってしまった自民党は見たことがないと思うほどです。江藤さんの委員長就任は、自民党の一部議員が石破おろしに固執することと同じ構図だと言えるでしょう。8月26日に発表された産経新聞社とFNNの合同世論調査では『石破首相は辞任すべきか』の質問に対して『辞任しなくていい』が51・9%と過半数に達しました。ところが反・石破グループの国会議員は総裁選の前倒しに奔走しており、少なからぬ国民を呆れさせています」

世襲議員の問題

 伊藤氏が思い出すのは、官房長官や副総理などを歴任した故・後藤田正晴氏(1914~2005)が「情と理」という言葉を口にしていたことだ。講談社から1998年に刊行された後藤田氏の回想録のタイトルにも使われた。

「後藤田さんは、政治家は情だけでもダメだし、理詰めだけでもダメと、折に触れ指摘していました。江藤さんが委員長に就任した背景を自民党の論理で読み解けば、まさに情を優先した人事ということになるでしょう。しかし情だけの人事で理がないために国民が納得しないのです。さらに江藤さんの人事が、今の自民党が抱える問題を象徴していると思うのは、彼が世襲議員だという点です」

 この記事に登場した江藤氏、石破首相、小泉農水相は全員が世襲議員だ。いかに自民党に世襲議員が多いかよく分かる。

「世襲議員の問題は多岐にわたりますが、その中の一つに『地元選挙区との関係が薄い』ことが挙げられます。そもそも小学校から大学まで東京という世襲議員も珍しくありません。さらに地盤と看板を“相続”していますから、選挙区を丁寧に回らなくても選挙で勝ってしまう。要するに世論に鈍感でも国会議員を続けられるわけです。それどころか、世襲議員は楽に当選を重ねて党の要職を歴任する傾向があります。地元の声に耳を傾けない世襲議員が自民党で増え、幹部として党運営に関与するようになったことで、自民党の政策や人事が世論と乖離するようになったのではないでしょうか」(同・伊藤氏)

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