母に怒鳴られ、殴られて育った少年が40年後、自分の息子を叩き、罵倒するまで【毒母に人生を破壊された息子たち】

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息子は、母親を幸せにするもの

 彼女もでき、子どもも生まれ、別れたとはいえ、得難い人生経験を経てもなお、井川さんは、今日も死にたいと思っている。

「僕は小学校の頃から常に、自殺したいと思っています。気分が落ちた時とかじゃなく、24時間、365日です。僕の中でまだ残っている唯一の人間不信が、女性恐怖です。女性に声をかけられないし、食事にも誘えない。一方で、女性と付き合えないんだったら、死んだ方がマシだって思います。僕、女性に対するこだわりがすごいんです。病的なまでに女性にこだわって、執着している。しかし、それでも女性とうまく接することができない」

 井川さんが夢想するのは、死ぬほど好きだと思える最愛の女性と付き合って、一緒になること。なのに、告白することもできない自分がいる。それは、勇気がないから自殺できない自分と同じこと。告白と自殺は一緒なのだと、井川さんは言う。

 なぜ、井川さんはそこまで強い執着を女性に持つのか。

「これって、母親トラウマだと思います。僕はお母さんを幸せにできなかった、というのがあるのかな。息子って、お母さんを幸せにするために、生きているじゃないですか。母親を幸せにすることでやっと、自分のことに向かえるというか……。だから女性と付き合って幸せにしたい。でも、それが出来ない自分がいる」

「母親を幸せにできなかった」というトラウマから逃れるために、井川さんは「最愛の女性」という架空の存在を夢想するしか、術はなかったのだろうか。その両極のジレンマにもがき苦しみ、死を希う日々が、井川さんにとっての人生なのか。しかし、そもそも息子は、母親を幸せにするための存在などではない。

 井川さんは今、こう思う。

「もしかしたら、母親から愛されなかったという恨み、悲しみを、他の女性から愛されることで満たそうとしているのかもしれません」

「奥さん」という生身の女性と、人生を共にした経験がありながら、井川さんは現実に存在しない“神話”に未だ、幻惑されている。

 般若となった母に容赦無く痛めつけられながらも、井川さんは当たり前にもらえなかった母の愛に今も惑わされ続けているのだ。 

 【前編】では、井川さんが幼少期から受けた、両親からの凄まじい精神的、肉体的虐待について記している。

黒川祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション・ライター。福島県生まれ。東京女子大学卒業後、専門紙記者、タウン誌記者を経て独立。家族や子ども、教育を主たるテーマに取材を続ける。著書『誕生日を知らない女の子』で開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『PTA不要論』『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』『シングルマザー、その後』など。最新刊に『母と娘。それでも生きることにした』。雑誌記事も多数。

デイリー新潮編集部

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