「平成スター」はなぜSNSで失敗する? YOSHIKIの「『ダンダダン』パクリ問題」で余計な炎上を生んでしまった理由

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 アニメ「ダンダダン」の劇中歌について、YOSHIKIが「X JAPANの楽曲に似ている」と投稿して物議を醸した問題。ライターの冨士海ネコ氏は、この炎上は「平成スターの感覚」と「SNS時代のリアリティー」との間のズレが一因であると指摘する。

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 X JAPANのリーダーであり、世界的な音楽家として知られるYOSHIKIさん。彼の功績を否定する者はいない。クラシックとロックを融合させ、日本の音楽シーンを刷新したその手腕、そして唯一無二のカリスマ性は令和の今もなお輝きを放っている。

 だが一方で、ここ最近のYOSHIKIさんのSNSでの言動は「時代に合っていない」と、批判の対象になりつつある。アニメ「ダンダダン」内での楽曲を巡る盗作疑惑への個人的な反応や、ファンの接触行為に対する「重要なお知らせ」と題した注意喚起投稿。いずれも本来であれば真っ当な主張であったにもかかわらず、余計な炎上や反発を生んでしまっている。

 その背景には、「平成のスター的な感覚」と「SNS時代のリアリティー」のズレがあるのではないだろうか。

無邪気なつぶやきでは済まされない…「お気持ち表明」がファンネル化する時代に

「ダンダダン」内での楽曲やパフォーマンスがX JAPANの「紅」に酷似しているという疑惑については、YOSHIKIさん自身は弁護士からの連絡を受けて初めて知ったと明かしていた。ただ、「えー?この件何も知らないんだけど、こういうのってあり?ファンのみんな、何が起こっているのか教えて」「この制作チーム、事前に一言ぐらい言ってくれれば良いのに…」という無邪気なつぶやきは、思った以上の反発を招いてしまったようだ。

 YOSHIKIさんクラスの影響力を持つ人物がSNSでそのような指摘をすると、ファンが「攻撃命令」と受け取る可能性がある。さらにアニメ内での「HAYASii」という名前について、自分の本名や亡くなった実父の名前ではと推測し、「みんな、悪気わないのはわかってるっけと…心が痛いしなぜか涙が出た」とまで言われたら、ファンとしては何とかしてあげたいと思うに違いない。アニメ制作側にも誹謗中傷は及び、番組が公式SNSを通じてYOSHIKIさんに謝罪。YOSHIKIさんも当初の投稿を削除し、「今回の件、全て関係者に任せます」と冷静な対応を見せたものの、「ファンネル行為だ」との批判は免れなかった。

 これはまさに、SNS時代の「お気持ち表明」の難しさを象徴している。本人はただ自分の感情を吐き出しただけでも、それが何千、何万の人間に影響を与える。その影響力をどう認識し、どう扱うかが、今の時代のアーティストには求められているのだ。

 YOSHIKIさんが投げた一言が波紋を呼ぶのは、彼がいまだ「平成の空気」をまとっているからだ。その「浮世離れ」っぷりこそが、彼をカリスマたらしめた一つの要因になっていたのは確かである。しかし時代は変わった。かつての「神格化されたアーティスト像」はSNSの時代にそぐわない。

「ダンダダン」の一連の騒動後、世界一豪華なディナーショーと銘打った「EVENING/BREAKFAST with YOSHIKI 2025 in TOKYO JAPAN KURENAI」を開催しているYOSHIKIさん。8月24日にはスタッフより、「重要なお知らせ」として、ファンからの突発的な接触を受けて右手を負傷した旨が日本語と英語で公開された。昨年10月にYOSHIKIさんは3度目となる首の手術を行っており、「この10公演は、3度目の首の手術を経て行う復活の公演でもあります」と再三の安全確保の重要性を訴える内容だったが、「先ほどの騒動から目をそらさせるための話題転換では?」と訝しむ声も少なくなかった。YOSHIKIさんにそのような意図があったとは到底思えないが、SNSという場の空気は時に善意すらゆがめてしまう。

 いまや芸能人でなくとも、具合が悪い時は無理せずしっかり休み、コンディションを整えてから仕事をするという考えの方が支持されるようになってきた。ケガや痛みに耐えてパフォーマンスに挑む俺/私という発信は、ストイックなプロフェッショナリズムというよりも、ナルシスティックな「かまってちゃん」にしか映らないという可能性もはらんでいる。

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