路線価上昇率「全国4位」のエリアに学ぶ 沈む地方が生き返る秘策

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高騰してもすぐ買い手がつく

 今年7月に国税庁が発表した路線価(道路に面する土地の1平方メートルあたりの評価額)に関して、注目すべき地域があった。これは今後の日本の街づくり、および観光資源づくりのうえで、大きな指針になりうる話である。その地域とは岐阜県高山市上三之町で、今年の路線価が昨年とくらべて28.3%もアップ。この上昇率は岐阜県内で1番なのはもちろん、全国でも4位だった。

 上三之町は、江戸時代の面影を残し、「飛騨の小京都」と呼ばれる高山の歴史地区のなかでも、ど真ん中に位置する。特徴的な出格子がもうけられた町屋が連なり、軒下には清らかな用水が流れ、ところどころ軒下には、杉の葉を玉状にした「酒ばやし」が下がる。

 そこにいま観光客が押し寄せている。とりわけ目立つのは外国人観光客である。2024年の高山市の外国人宿泊客数は約76万9700人で、対前年比では7割の増加、コロナ禍前の2019年の約61万2000人も大きく上回り、過去最高を記録した。7月1日付朝日新聞朝刊には「景観町並保存連合会によると、上三之町の目抜き通りでは、インバウンド需要の高まりから、経営者の高齢化などで廃業した店舗もすぐに買い手がつき、空き物件はほぼないという」と書かれている。

 この状況であれば、路線価が高騰するのもわかる。ちなみに、やはりインバウンドが押し寄せる京都府内の路線価も4年連続で上昇しており、府内で路線価がもっとも高かったのは、下京区四条通寺町東入2丁目御旅町の四条通で、上昇率は10.6%だった。だが、全国に「小京都」と呼ばれる地区は数多いのに、多くは高山ほどの状況にはなっていない。なぜ高山に人気が集中しているのだろうか。

 上三之町の目抜き通りを歩いてみれば、ほかの小京都との違いは一目瞭然である。

ほかの「小京都」とこれだけ違う

 町屋や造り酒屋など、江戸時代から残る歴史的建造物が数多く残る、ということはもちろん大事だが、それだけならほかの小京都と変わらない。では、なにが違うか。まず、町全体で家屋の様式や色彩が統一され、余計なものが目に入らない。

 電柱がないのはもちろん、古い町並みの多くが採用しているものがここにはない。たとえば、歴史的な町並みであることを意識して、燈籠風の街灯が立てられるケースは多いが、たいていは街灯の存在感が強すぎて、町並みの美しさを邪魔している。道路に切り石などを整然と敷き詰めた町並みも多いが、やはり主張が強すぎて、建築物とけんかしてしまう。高山の歴史地区は、そうした猥雑物が極力排除され、元来の家並みや道路の両脇を流れる用水の美しさが、素材の味を活かした上等な料理のように活かされている。

 また、多くの「小京都」では、町並みの一部が虫食い状に壊れ、あいだにモダンな建物や無粋なビルなどが挟まれるものだが、高山の歴史地区にはそれがない。江戸時代から変わらない様式の町屋などが並んでいる。だが、それらが必ずしも江戸時代や明治時代に建てられたとはかぎらない。要するに、新築の建物も多くは、江戸時代の建物とあまり変わらない工法により、周囲の建物と同様の意匠で建てられているため、町並みに徹底した統一感が生まれている。また、町屋の正面の出格子や入口なども、旧来のスタイルが保たれ、改変されていた建物でも、旧来の様式に戻されている。

 伝統工芸品をあつかう店が多いのも、町並みの価値を高めている。各地の「小京都」は若い人の集客を意識してのことなのか、安価な雑貨やスイーツなどの店が多くを占める場合もある。だが、高山の歴史地区は、この地域に現在も伝統工芸が息づくのが幸いし、飛騨春慶塗や一位一刀彫、渋草焼など、高山ならではの「本物」をあつかう店が多い。伝統的な造り酒屋や味噌屋などで、質の高い食料品も購入できる。

 こうした違いは、偶然生じたものではない。強く意識し、創り上げられてきたものなのである。

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