「ナンペイ事件」から30年目の夏…特捜本部が最後の望みをかける7点に絞られた「有力な物証」
浮かんでは消えた犯人像
捜査の過程で浮かび上がった、犯行に使われた拳銃と線条痕がほぼ一致した銃の所有者は当時、近接する自治体に居住していた。だが、事件への関与は認められなかった。
10年程前には、関係個所で献花をする暴力団員の姿が特別捜査本部にキャッチされ、本部内は一時色めきたったが、捜査の結果、真犯人ではないことが判明した。
身動き出来ない少女の後頭部に弾丸を撃ち込む残虐な手口から、外国人犯行説も浮上したほか、強盗ではなくパート女性への怨恨説でも捜査は進んだ。
しかし全てが空振りに終わり、完全に手詰まり感がある特捜本部だが、実は重要な証拠があるという。
「現場に残された指紋のうち、未だ誰のものかが分かっていない、7点の指紋があります。特捜本部はこの指紋に、最後の望みをかけているのです」(警察関係者)
別の警察関係者も「防犯カメラの画像解析やDNA鑑定など、科学捜査の驚異的な発達で有力な証拠類が多様化した現在でも、指紋は証拠の王様です。来年4月から自転車にも青切符が適用されるので、押印された指紋によって結果的に捜査網が広がり、真犯人があぶり出される可能性があるのです」と語る。
振り返れば初動捜査の総指揮は、警視庁の石川重明刑事部長が執り、その捜査を俯瞰して強力な後ろ盾となっていたのが、東京地検の甲斐中辰夫次席検事だった。そして現場の全権を任されたのが「ミスター1課長」の名をほしいままにした寺尾正大・警視庁捜査1課長。
石川はエリート警察官僚の王道を歩み、後に警視総監へと上り詰めた辣腕キャリアで、甲斐中は若くして「あさま山荘事件」を手掛けた伝説の鬼検事だ。課長としてソウイチ(捜査1課)たたき上げの名だたる猛者たちをまとめ上げ、捜査を差配した寺尾は、混迷を極めたトリカブト事件やロス疑惑を立件した不世出のデカ(刑事)である。
当時の寺尾は、オウム事件捜査に忙殺されていたが、新たに大きな難事件を抱えることとなった。この寺尾をしても、「ナンペイ事件」の特異性は際立っていたと思われる。通常は事件の概要などを説明する最初の記者会見は、管轄の警察署に場所を移して行うのだが、現場近くの路上で、深夜に急遽会見するという異例の対応を見せた。
その路上に久々に立ってみると、現場の喧騒を尻目に、街灯だけを頼りにして寺尾の説明に耳をそばだてながら必死にメモを取った記憶が鮮明に蘇る。
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