“世界から一番遠い種目”110メートル障害で日本人選手が大記録! 「彼ができるなら私も、という集団心理が働いている」

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「スタジアムを改名させよう」と冗談交じりに

 110メートル障害は、ひと昔前まで“世界から一番遠い種目”と言われていた。

 1981年当時の日本記録と世界記録の差は1秒13。距離に換算すると、実に10メートル近い開きがあった。

 しかし、近年は逆に“世界に一番近い種目”に変貌しつつある。

 8月16日に福井県営陸上競技場で行われた大会の男子110メートル障害決勝で、村竹ラシッド(23)が12秒92の日本記録を樹立した。

 スポーツ紙記者が語る。

「会場は、2017年に桐生祥秀が100メートルで日本人初の9秒台を出したことにちなみ、『9.98スタジアム』と呼ばれています。村竹はレース前、日本人初の12秒台を達成して『12.98スタジアムに改名させよう』と冗談交じりに話していたそうです。それをはるかに上回るタイムが出たので、本人も驚いていました」

 この種目、わが国は着実に地力をつけてきた。18年に金井大旺(29)が13秒36で14年ぶりに日本記録を更新すると、19年には高山峻野(30)が13秒30、13秒25とひと月で2度も塗り替えた。21年には、4月に金井が再び13秒16で記録保持者になるや、6月に泉谷駿介(25)が13秒06をマークし、23年6月には13秒04で自己ベストを更新。同年9月に村竹もこの記録に並んでいた。

 それが一気に0秒12、距離にして1メートル以上縮んだ。昨年のパリ五輪優勝タイム12秒99をしのぎ、今季世界2位。更に0秒12縮めれば世界記録12秒80に並ぶ。

“ロジャー・バニスター効果”

 快挙の要因は何か。

 ハードルは競技の性質上、高身長が有利とされる。110メートル障害で12秒台を達成したアジア人は、04年アテネ五輪金メダリストの中国・劉翔ただ一人だった。

 2人目に名を連ねた村竹は、アフリカ・トーゴ出身の父を持つ。ただ、トーゴ人男性の平均身長は約170センチ。日本の約172センチより低い。村竹の身長は179センチだが、金井も179センチで、高山は182センチ。近頃多い“ハーフの活躍”とはちと違う。ではなぜ?

「かつて1マイル走でロジャー・バニスターが4分を切るという不可能を可能にした後、他の選手も次々と3分台を達成。“彼ができるなら私も”という集団心理は“ロジャー・バニスター効果”と呼ばれますが、それが働いているようです」

 村竹は、来月東京で開催される世界陸上の金メダル候補に躍り出た。他に泉谷と、自己ベスト13秒20の野本周成(29)が出場する。

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