「鉄鋼市場で中国に譲ってはならない国は…」 日本製鉄・橋本会長が明かす 「すでにベトナムやインドネシア、マレーシアは中国の影響下に」
【全2回(前編/後編)の後編】
風雲急を告げる日米関係において唯一の朗報と言っていいだろう。米・鉄鋼大手「USスチール」の買収を完了した日本製鉄は、いかに超大国と渡り合ったのか。その舞台裏と今後の対中戦略を、同社の橋本英二会長がジャーナリストの櫻井よしこ氏に明かしてくれた。
***
【写真30枚】トランプ大統領が知らない日本の「アメ車人気」 マスタング、キャデラック…オールドカーが勢ぞろい! 色気たっぷり美女オーナーの姿も
前編【日本製鉄はいかにトランプ大統領を攻略して「USスチール」買収に成功したのか 「買収という言葉は使わない」「議論や説得は無意味」】では、日本製鉄がトランプ大統領を攻略できた理由について、橋本会長に解説してもらった。
櫻井 アメリカでの成功を祈りつつ、日本国内の鉄鋼業はどうなるのか。日鉄が海外に活躍の場を求めてしまえば、国内の空洞化が進んでしまうのではないかと心配でもあります。
橋本 残念ながら、日本国内で製鉄所を新設して、増産するのは現実的ではありません。1965年を最後に日本では製鉄所の新設は行われておらず、今後の予定もありません。若い人たちを鍛える場が国内にはないのです。日本の鉄鋼消費は90年の9500万トンがピークで、現在は5000万トンと半減。その間、われわれは輸出を増やして、なんとか生産を維持してきた。日本で生産された鉄鋼製品の50%は輸出向けですが昔は15%ぐらい。この規模で輸出している国は、世界でも日本と韓国、中国しかありません。その中でも当社は単一企業としては世界最大の鉄鋼輸出会社です。3500万トンベースで生産していますが、これは中国の国営企業を除くと、世界の中でも一企業が一つの国で作っている最大の量です。国内における開発力や技術力を保つためには何としても生産を維持していきたい。
中国と相対するための戦略
櫻井 あくまで日本に基盤を残すというお考えは分かりました。アメリカに進出して、いずれ世界一の製鉄メーカーに返り咲こうとすれば中国と相対することになります。それについては、どのような戦略をお持ちですか。
橋本 山崎豊子さんの小説『大地の子』にも出てきますが、かつての新日鉄は、中国ナンバーワンの鉄鋼メーカーとなる企業の立ち上げから製鉄所の建設、技術移転まで協力しました。私は79年に入社しましたが、当時の新日鉄会長・稲山嘉寛さんに「なぜ中国に最新鋭の製鉄所を造るんですか。日本の製鉄所は老朽化が始まっている。将来困らないんですか」と尋ねた。
櫻井 よくぞ言ってくださいました。
橋本 当時の会長からは「中国の需要が増えるから心配しなくていい」という話がありました。確かに、中国から日本に鋼材が輸出されることは、すぐには起こらなかったという意味では正しかったかもしれません。しかし、一番大事な技術が抜けるという点で見ればどうだったか。
[1/2ページ]


