公務員が飲んでいたのは「中国の偽ブランド水」だった…香港政府の調達入札で「10億円の大型詐欺事件」勃発 当局の“安易な契約”に非難集中
初の“中国産飲用水”調達
近年、日本でも定番化しつつあるウォーターサーバー。「飲用水は買うもの」という意識が強い香港では早くから普及し、従業員用に設置している企業も多い。政府機関も例外ではなく、公開入札を勝ち取った香港企業が自社ブランドの飲用水を納入してきた。
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政府調達を担当する政府物流服務署(服務署)は6月下旬、政府機関の飲用水について3社と3年間の契約を交わした。納入が決まった飲用水ブランドは、香港企業ワトソンズの「COOL」、中国ブランド(中国内地産)の「Happy喜士」と「鑫楽(ヤムロッ)」である。
実のところ香港は、何かにつけて“中国産”を信用しない。それだけに、中国産飲用水の初調達には驚きの声が上がった。しかも、「ヤムロッ」の製造者として契約書に記載された「楽百氏」は有名企業だが、水質問題により過去3年間で6度もブラックリストに入り、中国政府系メディアから批判された過去もあるという。
そうした現状から、納入が始まった7月下旬以降は“政府庁舎ビルの搬入口にペットボトル山積み”といった「水を自腹購入する公務員」の報道が相次いだ。この時点では「水の安全」としての注目だったが、公務員に対する見方が厳しい人も多い土地柄のため、「公務員の災難」という面での関心もあったようだ。
楽百氏がシンディシンとの関係を否定
事態が急転したのは8月16日のこと。問題視されていた「ヤムロッ」について、服務署は契約を停止し、香港警察に案件を引き渡したことを公表した。安全性への懸念どころか、そもそも“偽ブランド水”だった疑惑が勃発したのだ。
政府との契約では「楽百氏」の「ヤムロッ」が納入されるはずだったが、実際に納入されたものは主に「ヤムロッ観音山(または観音山)」と表示されていた。品質表示ラベルによると、製造者は前述の楽百氏と「観音山飲用水有限公司」、「羊台山飲品有限公司」の3社。政府調達の入札を5294万香港ドル(約10億円)で勝ち取った香港企業「鑫鼎鑫(シンディシン)商貿有限公司」は、包装商(パッケージングとディストリビュート)として記載されている。
だが、楽百氏の法務担当者は香港TVBテレビニュースに対し、シンディシンおよび「ヤムロッ」との関係を明確に否定。先に政府からの問い合わせにも同様の返答をしていたこともあり、契約の解消につながっていた。
警察は18日、シンディシン社長の呂子聰(61)と妻で株主の陳碧琳(57)を逮捕。翌日に詐欺容疑で仮起訴され、妻は保釈が認められた。21日には契約にない「観音山」を納入したとして商品説明條例でも仮起訴されている。他に中国内地の男1人が指名手配中だが、職業などの素性は明かされていない。
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