公務員が飲んでいたのは「中国の偽ブランド水」だった…香港政府の調達入札で「10億円の大型詐欺事件」勃発 当局の“安易な契約”に非難集中
「地元の人は飲まない」
では、納入された水はどこから来たのか。警察は捜査の結果、実際に製造したのは広東省東莞市樟木頭の「観音山ミネラルウォーター工場」だったことを突き止めた。ただし、闇工場ではなく正式な認可を受けたOEM工場で、香港に運ばれた水も再検査で問題は見つかっていない。
公務員たちの不安はひとまず払拭されたものの、香港メディアは東莞の水業者から「観音山は地下水で、味が気に入らなかったので売るのをやめた」「地元の人は飲まない」といった証言を得た。偽ブランド水の中身は、味が悪くて不人気な安い水だったというわけだ。
熱い取材合戦は現在も繰り広げられている。品質表示ラベルにある楽百氏以外の2社は社長が同一人物で、実はこの一件に関係しているのではという疑惑や、呂子聰が多額の負債を抱えていた事実も掘り起こされ、全容の解明にはまだ時間がかかりそうだ。
またしても公務員は「お咎めなし」?
香港の関心は現在、政府の脇の甘さに集中している。シンディシンは2007年に設立されたが、数年間は休眠会社で昨年7月に再開したばかり。しかも呂子聰と妻は、シンディシンではない別の会社で別の政府機関と3件、総額1,100万香港ドル(約2億円)以上の契約も結んでいた。しかもこの別の契約で、政府はすでに76万1,000香港ドル(約1,450万円)を支払っていたことも明らかになった。
飲用水の契約ではシンディシンが先に保証金を支払ったため、政府の金銭的損害はなかったが、穴だらけの企業と巨額契約を結んだという失点は消えない。すべての契約について事前調査はもちろん、物流署の署長ら高官で構成される委員会の審査は行われたのかなど、香港中から厳しい批判の声が上がっている。
入札時に提出した水質検査報告書すら偽造だった疑いがある以上、政府の責任問題が注目されるのは必然。各方面が責任の所在を明確にした解決を求める背景には、過去にこうした件で公務員が処罰された例が少ないという事実がある。水から基準値を超える鉛が検出された2015年の事件でも、最終的に責任を問われた公務員はいなかった。
「水の安全」から「詐欺事件」を経て「政治スキャンダル」となったこの一件も、公務員はまた”お咎めなし”になるのでは……と懸念されている。
[2/2ページ]

