農水官僚「天下り」のひど過ぎる実態 「農家を犠牲にして現状維持」 改革は可能なのか
日本式「回転ドア」
農薬工業会という団体がある。現在は名称をクロップライフジャパンに変更している。会員は農薬メーカーである。21年に松浦克浩元神戸植物防疫所長が専務理事に就任。その前の専務理事も農水官僚だから天下りのポストなのだろう。JAグループの一員であるクミアイ化学もここの会員である。つまり農水省と農薬メーカーと農協の3者が、ここでも「トライアングル」を築いていたのである。
これは米国の「回転ドア」を彷彿させる。米国政府とバイオ企業のモンサント(現在はバイエルが買収)が人事交流する隠語だが、米国政府の高官がモンサントの役員になったり、モンサントの弁護士が政府機関のFDA(食品医薬品局)の役員になったりすることだ。さすがに日本では無理だろうと思っていたが、もしかすると日本式「回転ドア」なのかもしれない。
日本は主な化学肥料の原料のほぼ全量を輸入に頼っている。それなら有機栽培が広がるはずなのに、日本の耕地面積に占める有機農業の割合は0.7%と10年前からほとんど変わっていない。かつて有機農産物なんて目にしなかった中国でさえ、今では面積で世界第4位になっている。各国が有機栽培の面積を急増させているのに、日本は世界91位まで後退しているのだ。
農協が農家に配付する「栽培暦」には、農薬や化学肥料をまく時期がカレンダー式に懇切丁寧に記されている。兼業農家はこれに従って散布する仕組みだから、有機栽培が広がらないのは当然なのだ。
巨額の税金が……
農地の改良事業を行う団体などを統括する全国組織が全国土地改良事業団体連合会(全土連)である。会長は二階俊博元自民党幹事長。20年にここへ室本隆司元農村振興局長が専務理事として就任した。彼以外にも農水省からたびたび天下りしている。おそらく「農業構造転換集中対策」が関係しているのだろう。これは日本の農業構造の転換を図るべく、農地の大区画化やAIを使ったスマート農業などを推進しようという新たな政策のことである。
「今後5年間で2兆5000億円が投入される計画だ。農地の大区画化などに8000億円、スマート農業に7000億円、老朽化した共同利用施設の更新などに9000億円、あとは米の輸出拡大事業だ。このうち農地の規模拡大は全土連が受け皿になるだろうな。農家ではなく土木業者が潤う。これが農業政策の目玉というんだから最悪だね」(元農協組合長)
最近、農機具メーカーに再就職する農水省職員が増えている。スマート農業に7000億円をあてた見返りにポストが提供されたのだろう。こうして巨額の税金が企業に分配されていくのだ。
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