農水官僚「天下り」のひど過ぎる実態 「農家を犠牲にして現状維持」 改革は可能なのか

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「官僚もJAも現状維持が目的」

 安倍政権の「農協改革」は、「大筋合意」したTPP協定を国会で批准するので反対するな、というサインだったのだ。とはいえ、このときに農協の政治活動の軸であるJA全中は、農協法改正で農協への監督権限を奪われたのだ。JAにとっては大打撃だったはずで、農協は組織を固めるためにキャリア官僚の天下りを積極的に受け入れたのだろう。

 それにしても、戦後80年だというのに、これまで農協はなぜ改革できなかったのか。作山教授は言う。

「トライアングルに集まってくる官僚もJAも、現状維持が目的なので、現状を変えないことが重要なのです。つまり改革はできないということです」

 例えば、農地改革で誕生した大勢の自作農は農林族の票になるのだから、農地を大規模化して票を減らすのは農協にとっても困るということになる。時代に合わせて改革しようにもできなかったことが、日本の農業を危機にまで追い込んでしまったのである。

 では、農水省の官僚たちはどこへ天下りしたのか。内閣人事局が発表した報告を基に検証する。

巨大金融機関

 農林中金は100兆円を超える貯金を抱えた巨大金融機関である。本来「農林水産業の発展に寄与」(農林中央金庫法第1条)することを目的につくられたのだが、実際は農業ではなく、主に外国債券に投資してきた。それが2兆3000億円もの含み損を抱えていることが分かったのは昨年6月である。08年のリーマンショックでも大きな損失を出したが、理事長が農水省の天下りから生え抜きに変わったのはこれが理由である。ここへ14年に實重重実元農村振興局長が常勤監事に就き、21年に大澤誠元審議官がエグゼクティブ・アドバイザーに就任した。大澤氏は24年にニュージーランド特命全権大使となったが、「専門知識や経験に基づいて助言する仕事なのに、なぜ巨額の損失に気付かなかったのか」と農協内で言われている。また、皆川芳嗣元事務次官が20年に「金融識見者」として農林中金の経営管理委員になった。皆川氏は退官した後、16年に農林中金総合研究所の顧問になり、2カ月後に理事長に就任するのだが、4年たって本体である農林中金の役員を兼任したというわけだ。彼も19名いる経営管理委員の一人なのだから、運用失敗による巨額の損失を出した責任は重大である。ところが、農水省が公表した有識者検証会の報告書では、皆川氏はもちろん、誰一人責任を取っていない。さすがに奥和登理事長は退任したが、あきれたことに、その直後に農林中金総合研究所顧問に就任しているのだ。

 JA全農(全国農業協同組合連合会)は、農畜産物の販売や生産資材の供給などを担うJAグループの中核である。17年、本川一善元事務次官が経営管理委員に就任した。本川氏の事務次官就任は15年だが、在任期間は1年もなかった。

「安倍政権が農協改革をするのに彼が事務次官では邪魔だということで、菅(義偉内閣官房長官)が彼を退任させて奥原(正明)を事務次官に据えたんだ。通常、同期が次官になれば他は退官するのが慣例だが、奥原は経営局長として残っていたんだよ」(農水省OB)

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